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インタビュー

【5月16日】――俺はあきらめてない

 

【5月16日】――俺はあきらめてない

 

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インタヴューから9日後の3月11日以降、TOSHI-LOWの行動は素早かった。すぐに地元・水戸の仲間を中心に救援物資を集める活動を開始して被災地に赴き、2週間後の3月27日には水戸ライトハウスでBRAHMANとしての支援ライヴを急遽実施。チャリティー活動はいまも続けられていて、2度目のインタヴューを行った5月16日の時点では所属するTACTICS RECORDSにおいて、支援物資として米の受付を広く一般から行っていた。当日の取材は、TOSHI-LOWがそうした活動のなかで何を見、何を思ったかの確認から始めさせてもらった。

「最初に被災地の真ん中に立ったときには、音楽のことはまったく考えなかった。まず浮かぶのは生きるか死ぬかの光景で、たぶんここで誰かが溺れていったんだろうなとか、ここで子供の手を離してしまって後悔してる人がいっぱいいるんだろうなとか、そういうことをはじめは思い浮かべるんですけど――やっぱりそこから離れた瞬間に、自分には何ができるか?と思うわけですよ。俺がそこにずっと住んで瓦礫の撤去を手伝うことが、果たして俺のマックスなのか?と言ったらたぶんそうじゃない。最終的には音楽をやることでその人たちの力になりたい。じゃあ何をすべきか?と考えて。震災後の最初の1週間は生きるか死ぬかの状態だったからまずは支援物資が必要でしたけど、3月半ばの段階で、もう音楽に移すべきなんじゃないかと思って、水戸でライヴをやった。自粛だとか不謹慎だとか、叩かれまくった時期だったけど、そんな反論に押し潰されないような答えはもうあったんですよ。というのは、最終的に音楽が俺のなかに流れてきたから。被災地から帰るときに黙っていたかというと、やっぱり好きな音楽を聴いて帰るんですよ。自分が聴いたら勇気づけられるような音楽を。音楽は何も救えないとか、はじめに宣言した人たちもいっぱいいたけど、でも俺はそれに対する反論ができる。なぜなら俺が、音楽がなかったら生きてこれなかった人間だから。一人でもそんな人間がここにいるんだから、〈音楽で世界は救えない〉なんて言うんじゃねぇと。〈俺はオマエみたいにあきらめてないんだ〉と」

3月2日のインタヴューの最後で触れていた“gross time~街の灯~”のエピソードは、いまとなってはあまりに生々しい。TOSHI-LOWの言った「すべてのものが消えていくような焦燥感」「ふとした瞬間に、人生のすべてが終わってしまうという感覚」と、アルバムのジャケットに象徴される強烈な喪失感――それは予言と呼ぶにはあまりにリアルに、3月11日以降の日々を生きる人間の胸に突き刺さってくる。

「俺は音楽で嘘を言ってないから、そこで行き詰まっている部分も自分でわかってはいたんですよ。というのは、嘘っぽい歌や嘘っぽい活動をしてる人が、愛や平和や永遠を歌っていて、そういうものがみんなのハートをつかむ状況のなかでは、自分みたいなのが〈ヘタしたら明日すべてが終わってしまうかもしれない〉って歌う歌がだんだん響かなくなってるのかな?って感じてたし、そっちのほうが嘘なんじゃないの?って言われてしまうことも少なからずあったんで。だから変な話、震災があっても俺は全然ビックリしなかった。自分が思っていたことが本当に起こっただけなんで、〈あ、きたな〉と。〈ここでくるか?〉とは思いましたけどね。もっと将来にくると思っていたので。でも俺がずっと歌ってきたことは、ニヒリズムではないんです」

この『夢の跡』は歌詞も楽曲もアートワークもすべて、当初の形から一切の変更はなされていない。ただし、すでに3か月前にこの作品を聴いていた人間の一人として、言葉の響き方がまったく変わったことを伝えておかなければいけない。〈人間の力ではどうにもできないこと〉が発生してしまった、その後に繋がるもの。それを象徴するのが、アルバムを通して繰り返し登場する言葉〈街の灯〉だ。

「街の灯が消えても死ぬ人はいないと思うけど、心の灯が消えた瞬間に死ぬわけじゃないですか。そこを復活できるのは音楽なんですよ。正確に言えば、音楽が大きな割合を持っている世代もあると思う。ちょっと前に流行ったガンバレソングみたいなクソじゃなくて、もっと本当に自分が選んで、悲しいときに寄り添ってくれるような1曲。それはたぶん一生聴くと思うんですよ。食べる、寝るという生活に関したこと以外にそういうものをひとつ持ててる人は、心が豊かだと思うし、その1曲を歌いながらがんばれる。音楽にはそういう力が絶対にあると思うんですよ。福島第一原発の3号機が水素爆発を起こしたときに、ちょうどいわき市方面に向かって走っていて……やっぱり怖いじゃないですか。そこで俺、SIONを聴きましたからね。普通に。あるんですよ、そんなふうに自分を助けてくれる曲が。それはブルーハーツかもしれないし、ハイスタかもしれないし、各世代でいろんな曲があると思うし、そういう曲が1曲でも自分のなかにあるというのはすごい勇気づけられるし、音楽の役割はそういうところが本当は大きかったと思うのに、商業的なことばかりになって、そんな曲を1曲作るよりももっと宣伝にお金をかけてとか、年間何枚も出してとか、売れてもないCDをレコード会社が買い漁ってチャートの順位だけを上げたりとか、そんなの誰にとっても無駄じゃないですか。本質とは違うことに偏りすぎたんじゃないかなと思うから、いまこそ音楽をやる意味を、音楽をやってる人たちはもう1回見直すべきだと思うんですよ。この震災で少しでも心にひっかかるものがあるのであれば、音楽への関わり方というものを、もう1回考えるべきなんじゃないですか?と。聴く人も、そこで自分がどの曲を選ぶか?という観点で聴く人が増えてもらいたいと思うんですよ。ただの癒しとか、イージー・リスニングとしてのポップス、ロックではなくて。自分の根底に触れるような音楽を選んでいたほうが、もし自分が辛い立場になったときに、絶対に強いと思うんですよね」

美しく穏やかな、しかし鋼のような芯の強さを持つ楽曲を集めた『夢の跡』が、われわれのこれからをどう照らし出していくのか見届けたい。

 

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掲載: 2011年05月25日 18:00

更新: 2011年05月25日 22:10

インタヴュー・文/宮本英夫