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インタビュー

久住昌之 『MUSICOMIX』

 

日常で感じる楽しさも切なさも、久住流のユーモアで包んだ〈ブルース・アルバム〉が完成!

 

久住昌之_A

世間では漫画家として脚光を浴びることが多い久住昌之。漫画のほかにもレコードや本の装丁、エッセイの執筆、切り絵の制作など、マルチな才能を発揮してきたなかで、学生時代から漫画と変わらない情熱で打ち込んできたのが音楽だ。いまでは年間50本以上のライヴをこなして日本中を駆け回っている彼が、初めてのソロ・アルバム『MUSICOMIX』をリリースした。

「とりえず、いまこんな音楽をやっている、というのをまとめておきたかったんです。自分が普段やっている音楽をそのまま自然にやった感じですね。いっぱい歌って、コーラスも重ねて、いろんな楽器を使えたのも楽しかった」。

もちろん、すべての曲を作詞/作曲しているのは自身だが、ここでは20名を超えるミュージシャンが参加。久住漫画ファンにはお馴染みの名物ラーメン屋にリスペクトを捧げた“江ぐちの歌”や、ニール・ヤングばりに彼のギターが唸る“丘の上の馬鹿”などヴァラエティー豊かなナンバーが並ぶなか、強烈な存在感を放っているのが特撮映画の名作「大魔神」に捧げられた“中魔人”だ。重々しく登場した中魔人が、どんどん小市民化していくおかしさは、久住漫画の笑いに通じるものがある。

「〈大〉じゃなくて〈中〉。その時点で魔人じゃないからね(笑)。(〈大魔神〉の音楽を担当した)伊福部昭さんが大好きなので、〈ゴジラ〉のテーマとか伊福部さんの音楽的な要素を採り入れながら作ったんです。パロディーじゃなくて、正面から伊福部音楽に向き合って」。

一方、ガレージ・パンクな“Prince”ではやんごとなきタブーに挑戦。生前親交があった忌野清志郎の名前も出てくるこの歌には、彼のミュージシャンとしての覚悟が見て取れる。

「〈こんなこと歌ってヤバいんじゃないの〉なんていう風潮があるけど、それじゃあダメじゃん、と。歌詞に清志郎さんの名前が出てくるのは、清志郎さんに影響を受けたことを形として出しておきたかったからです。レコーディングした時は気負いがあってパンクな気分だったけど、いまはもっと優しく強く歌えると思うな」。

激しい時も、切ない時も、いつもどこかにユーモアが滲む歌。そのユーモアとは、人生や日々の生活から沁み出る血の通った滑稽さだ。そんな彼の音楽の魅力は、子供の目線で歌われたブルース“ショベルカー・ブルース”に凝縮されている。

「〈王様だって乞食だってブルーな日があるぜ〉っていうのがブルースだと思うんですよ。だから5歳の子供だって、朝起きてお気に入りのショベルカーがなかったらブルーな気分になる(笑)。それを歌うことだってブルースなんです。ブルースって、ただ悲しいだけの歌じゃなくて、歌っていて何だか楽しい気持ちになってくるからずっと聴き継がれてきたと思うんですよね。そういう意味で、僕のアルバムに入っている曲は全部ブルースって言えるかもしれない」。

仲間たちと精一杯音楽に打ち込み、精一杯遊んだアルバム。そんな冒険の日々が綴られた本作には、まるで夏休みの絵日記みたいな楽しさが詰まっている。

 

▼関連盤を紹介

久住昌之&BlueHipの2006年作『自由の筈』(GIANT-ROBOT)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年07月26日 19:24

更新: 2011年07月26日 19:24

ソース: bounce 334号 (2011年7月25日発行)

インタヴュー・文/村尾泰郎