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インタビュー

DIR EN GREY 『DUM SPIRO SPERO』

 

誰も聴いたことがない、自分たちだけの音を作る——今回もこのテーマを掲げながら、これまでよりも柔軟にバンドの魅力を伝える新作が完成!

 

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作ってる人間の空気感を感じてほしい

DIR EN GREYが8枚目のニュー・アルバム『DUM SPIRO SPERO』を完成させた。“激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇”“LOTUS”“DIFFERENT SENSE”と3枚のシングル曲を含む全14曲入りとなった今作は、これまでのファンならずとも耳を傾けてほしい一枚に仕上がっている。振り返ってみれば、前作『UROBOROS』は彼らの作品のなかでもエポックメイキングな作風で、卓越した演奏スキルとプログレッシヴな曲展開が激しくぶつかり、バンド自身のオリジナリティーを極限まで高めることに成功したアルバムだった。

「『MACABRE』(2000年)の頃はキング・クリムゾンやピンク・フロイドをずっと聴いてたんです。たぶん、それらのよくわからない感じに惹かれたんですよね。バンド結成時から、何かわからないけど〈格好良かったらいい〉みたいな考え方があるんですよ。かといって、そんなに難しいことをポンポンとできるわけじゃないから、自分たちらしくアレンジすることを意識してましたね。あれから何年も経って、もっと濃いものを作ろうと思ったのが『UROBOROS』なんですよ。いままで培ってきたもの、いま自分たちがめざしているもの、自分たちにしかできないものを一枚作りたいなと思って、その通りの形になったと思います」(薫、ギター:以下同)。

そんな前作で得た達成感を胸に、彼らはその先へとさらに突き進んでいく。それは自分の五感だけを頼りにして、未踏の地に足を踏み入れていくような心境に近いかもしれない。最初に曲を作り、バンドで合わせ、実際にレコーディングしはじめた頃に、少しずつ今作の道筋が見えてきたそうだ。

「今回もメンバー間で話し合いはしてません。話さなくても前作以上のもの、前作とは違うものを手探りで作りはじめた感じです。でもすっごく時間がかかって、半年で4〜5曲できるか、できないかという状態になって。それだけ時間をかけられることはアーティストとして楽しいことだけど、これで本当にバンドとして満足できるものに仕上がるのかな、という疑問が出てきたんです。見えないものを掴もうとするよりも、もっと自分たちが培ってきたものだけを出して、そのなかで枝分かれさせていくアレンジを取らないと、振り返ったときにおかしなものになるんじゃないかと気付いて。それからは、例えば何パターンか用意したリフをメンバーに聴かせて、そこから曲を広げていこうかって」。

今作は壮絶なリフで畳みかけるパートも多く、過激度は前作以上と言えるだろう。もちろん、それだけではない。一曲一曲のヴァリエーションや場面展開もさらに凝っている。薫の言葉を借りるなら、「一本の筋は変わらず、そのなかでどれだけ聴いたことがないものを作れるか」を追求したであろう曲ばかりだ。今回は一曲のなかでメンバー5人が主役の座を奪い合うかのように目まぐるしく入れ換わり、あるいは一枚岩となって攻め込んでくる場面もある。前者では攻撃性を剥き出しにする一方、後者ではひとつひとつの演奏やフレーズが鮮やかな映像を喚起し、聴き終えた後は起伏の激しい壮大なストーリー性にスッポリ呑み込まれてしまったような感覚に襲われる。また、先行シングル“DIFFERENT SENSE”で長い間封印していたギター・ソロが復活し、これまで彼らを追いかけてきたリスナーを少なからず驚かせたが、“VANITAS”や“獣慾”でもハード・ロック調のブルージーなギター・ソロを聴くことができる。

「ずっとやってなかったことをまたやりはじめただけなんですけどね。今回は作ってる人間の空気感をより感じられるような作りにしたくて。パッと聴き、リアルに感じられるのは歌だと思うから、ここ何年かはヴォーカルを立たせる楽曲ばかりだったんです。でも、ヴォーカルではない違う人間がトップに来たり、目立つ曲があってもいいんじゃないかと。いろんな人間の感覚を味わえたほうが聴いてる側もおもしろいと思うし。単純にギター・ソロは弾いてる人間の空気や表情が出やすいと思うんですよ」。

息ある限り希望を捨てず

また、今回はジャケのアートワークも非常に興味深い。竹藪で千手観音に似た物体が薄明かりに照らし出されている。この和の雰囲気漂うジャケを眺めていると、サウンドもどこか和的なムードが感じられるから不思議だ。これは僕の思い違いだろうか。

「今回はイラストや加工したものじゃなく、リアルに存在するものをモチーフにしたジャケにしたくて。この物体も実際に作ったんですよ。で、どこで写真を撮るかとなったときに、自然のなかというアイデアが出てきて。日本っぽいものを出そうとしたわけじゃなく、たまたま良かったのが竹藪で。ウチらの場合は、最終的にいろんなパーツがリンクすることが多いんですよね。あえて日本っぽいものを意識したわけじゃないけど、京(ヴォーカル)のメロディーやテンポ感、またギターのリフひとつとっても、日本に住んでる自分たちだからこそ出せる雰囲気はあるんじゃないですかね」。

最後にアルバム・タイトルにも触れておきたい。『DUM SPIRO SPERO』(ドゥム・スピーロウ・スペイロウ)、ラテン語の格言で〈息ある限り希望を捨てず〉という意味だという。

「個人的な話になるけど、14年バンドをやってきて、あとどれくらい自分がやり続けられるかを考えた時期があったんですよ。それで今回作品を作り終えたことで、どこか〈生かされてる〉ような感覚があって。そういう意味で、このタイトルは自分たちに対して言えた言葉で。震災直後のレコーディングもどうするかという話になったときに、いま自分たちはやれることを最後までやり切って、いち早くアルバムを届けることが希望に繋がればいいなって。そういう気持ちもこのアルバムには詰まってます」。

▼関連盤を紹介

『DUM SPIRO SPERO』の先行シングル“DIFFERENT SENSE”(FIREWALL DIV.)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年08月02日 20:27

更新: 2011年08月02日 20:27

ソース: bounce 334号 (2011年7月25日発行)

インタヴュー・文/荒金良介