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インタビュー

ゆーきゃん 『ロータリー・ソングズ』



京都から東京、そしてまた京都へ——足跡の描く円と縁から生まれた、偶然のミニ・アルバムが到着

 

 

京都在住のシンガー・ソングライターであり、BOROFESTA(今年で10周年を迎えた京都のインディー・フェス)の主催メンバーであり、レコード店のスタッフも務める。そんなゆーきゃんの新作ミニ・アルバム『ロータリー・ソングズ』が完成した。ソロ名義では実に7年ぶりの作品なのだが、その間彼はバック・バンドを従えた作品を発表したり、池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)とのユニット=シグナレスで活動したりと音楽的な探求を続けていた。本作の制作はそういうなかでの高橋健太郎(文筆家/音楽制作者)のひょんな誘いから始まっている。

「ニック・ドレイクの『Pink Moon』みたいなアルバムをいつか作りたいって僕がブログに書いたのを、健太郎さんがたまたま見たらしいんです。ちょうど彼が当時住んでた家を取り壊す1週間くらい前のことで、〈その前にいっしょに録りませんか?〉って言ってくださって、2009年の4月に東京の健太郎さん宅で急遽レコーディングをしました」。

そうやって生まれた本作はトラックメイカー・デュオのFragmentが主宰するレーベル、術ノ穴からのリリースとなった。

「不思議ですよね(笑)。〈なんでですか?〉ってよく言われます。これもたまたまなのですが、リリースも考えてないときに、ライヴで京都に来ていたFragmentにデモ音源をあげたんです。そしたら〈全然カラー違いますけど、ウチから出しませんか?〉って」。

この数年、ゆーきゃんには多くの変化があった。2008年春に活動拠点を東京へと移し、高円寺でレコード店の店長勤務を経験。そして本作を録音し、2009年の12月に京都へ戻っている。

「“ファンファーレ #0”はそのレコード店から見えていた高円寺駅前のロータリーを歌った曲です。『ロータリー・ソングズ』には、京都から東京を経て京都に戻った僕のめぐりが輪に似てるという意味もあります。あとは人の縁。健太郎さんとは長年の知り合いなんですけど、まさかいっしょに作るとは思わなくて、そこにも大きな時間の流れの輪を感じました。ラストに京都でのライヴ音源“天使のオード”を入れてあるのは、輪を締める(京都に戻る)ためです」。

さらに東日本大震災の影響で、アレンジやミックスはガラッと軌道修正されたという。

「世界が終わるんじゃないかって、月並みだけど本当に思ったんですよ。いま起きていることに対して、何かレスポンスをしなきゃいけない。そんな気持ちから最初の状態に手を入れたんです。生々しくて、暗くて、ヒリヒリしてたものを、アレンジとミックスでまろやかな質感に変えました。いま自分の身体が求めたリアクションがこの音だった。“地図の上の春”に〈このまま春を待ちながら死んでしまいたい〉っていう歌詞があるんですけど、ここが勝負のラインのひとつ。言葉の直接的な意味じゃない部分が伝われば、このミニ・アルバムは成功です」。

その質感を出すため、キーボードにエマーソン北村、ベースに田代貴之(元・渚にて)、コーラスに見汐麻衣(埋火)を迎え、高橋はギターでも参加している。

「入れたい音のイメージと、健太郎さんがミックスで作る音のイメージ、そして、例えばエマーソンさんの音のイメージ、トータルな相性を考えてゲストを選びました」。

さまざまな経験を積み重ねるうちに、ゆーきゃんの意識は変わってきたそうだ。

「東京に住みはじめたときくらいから変わってきましたね。昔は自分の歌や言葉である意味、誰かをねじ伏せよう、突き刺そうとしてました。シンガー・ソングライターって突き詰めると〈私を聴いてくれ〉ってことじゃないですか。その〈私を〉が極端に減った。いまは音楽が流れることで生まれる関係を大事にしたい。自分の歌に耳をすませてくれる人に誠実でありたいです。『ロータリー・ソングズ』ではすごくいい関係が作れてるんじゃないかな」。

 

▼関連盤を紹介。

左から、ゆーきゃんの2004年作『ひかり』(waikiki)、ゆーきゃん with his best friendsの2007年作『sang』(NOISE McCARTNEY)、シグナレスの2011年作『NO SIGNAL』(felicity)、ニック・ドレイクの72年作『Pink Moon』(Island)、埋火のニュー・アルバム『ジオラマ』

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年10月27日 20:40

更新: 2011年10月27日 20:40

ソース: bounce 337号(2011年10月25日発行号)

インタヴュー・文/田山雄士

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