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インタビュー

小松亮太

ピアソラの「壁」に正面から挑む


 

アルゼンチンの作曲家でバンドネオン奏者アストル・ピアソラ(1921-92年)は今年が生誕90年で来年が没後20年。日本を代表するバンドネオン奏者、小松亮太は「2年続きのアニバーサリー(周年)にうんと甘えさせてもらったら、後は看板を外す。ピアソラの壁をどこまで破れるか。負け戦かもしれないが、自身の作曲でバンドネオンにとどまらず、メロディ豊かなポピュラー音楽の復活を担いたい」と語る。10月5日発売の『俺のピアソラ』(ソニー)は小松にとって4枚目のピアソラ・アルバム。自作自演の録音が大量に遺っている中、「御本人と同等か、それ以上の演奏を目指した。一応、そういう音に仕上がったと思う」と自負する高水準の出来栄えだ。

――クラシックの器楽奏者を中心にいまだ、ピアソラは〈タンゴかクラシックか〉との問答が続いているが。

「アルゼンチンでは1950年代に論争されていた。ピアソラはプロとして映画音楽、タンゴ、ロック、現代音楽、ジャズと多彩に作曲しており、単純に言えば、曲によってジャンルが違う。自分の国を終始、外国から眺めていたようなところがあり、タンゴに絞っても曲ごと、精神面を含めての変化に富む。タンゴの起源自体、どこの国にあるのか、よくわからない。ひどい場合は民族音楽と誤解されている。一応バンドネオンはドイツ起源の楽器だし、譜面をみて演奏する。恐らくヨーロッパの人の編み出したラテン音楽がブエノスアイレスに逆流、ジャズなどと混ざってつくられたのがアルゼンチンのタンゴだろう。ピアソラにも、タンゴ経験がないと演奏できない作品がたくさんある。クラシック奏者がピアソラを手がける例は増えたが、先ずは自身の解釈に疑問を持ち、複雑な背景に目を向ける探究心くらいは発揮して欲しい」

――『俺のピアソラ』のアルバム・コンセプトは?

「今までも面白い演奏、企画を目指してきた。正直言って1人の作曲家の作品内にも面白いか、つまらないかの差異があり、音楽ソフトのダウンロード化が進む現在、有名でない曲や長い曲は敬遠されがち。ピアソラ以外のタンゴを聴く機会も減っている。悔しいけど《リベルタンゴ》や《ラ・クンパルシータ》は良く出来ていて、幼稚園のボランティア演奏で子どもらに聴かせても、翌日まで覚えている。そこで今回は《リベルタンゴ》目当てにお買い上げ頂いても他の曲の良さを見つけて欲しい、耳を肥やして欲しいとの願いをこめ選曲した。《革命家》から《コラール》《五重奏のためのコンチェルト》《ヴィブラフォニッシモ》に続く一角は、余り知られていないが、実はライヴで何度も演奏してきた作品でまとめた」

――ピアソラ自演と、あえて比べれば。

「日本で普及した外国の料理でも、いきなり本国で本物を食べさせられると、美味しいのかどうか、わからなくなる。ピアソラ自作自演を本物と言うなら、異国で『こうとしか考えられない』と突き詰め、見事に奏でた『素晴らしいニセモノ』の域には到達できたかと思います」

 

『小松亮太 ライヴ・スケジュール』
2011年10/22(土)八ヶ岳高原ロッジ
11/3(木)サンポートホール高松
11/17(木)東京グローブ座
11/30(水)名古屋市青少年文化センター
12/4(日)保谷こもれびホール
12/11(日)磐田市民文化会館
2012年1/28(土)第一生命ホール
2/10(金)いずみホール

http://www.ryotakomatsu.com/

掲載: 2011年10月20日 13:39

ソース: intoxocate vol.94(2011年10月10日)

interview & text :池田卓夫(音楽ジャーナリスト)