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インタビュー

羊毛とおはな 『月見草』

 

尊敬するプロデューサーを迎え、音楽的な志向を真っ直ぐのびのびとスケッチしてみせたアルバム『月見草』は、新章突入への合図だ!

 

羊毛とおはな_A1



〈羊毛とおはな〉という名前から想起される牧歌的な雰囲気を踏まえながらも、その豊潤な音楽性をこれまで以上に生々しく表現することに成功した、きわめて意義深い作品だと思う──『どっちにしようかな』以来、約2年ぶりとなるオリジナル・フル・アルバム『月見草』。本作において千葉はな(ヴォーカル)と市川和則(ギター)の2人は、みずからの音楽的な志向──ジャズ、フォーク、ワルツなどをごく自然に吸収したサウンド、童謡や絵本をイメージさせる歌の世界──をよりストレートに描き出してみせた。その要因はやはり、「1年ほど前にライヴを観にきてくれて、その2日後くらいに〈いっしょにやろうよ!〉って言ってくれたんです」(千葉)という鈴木惣一郎のプロデュース・ワークだろう。

「すごく尊敬している人だし、声をかけてもらえたのがホントに嬉しくて。しかも、作詞/作曲の段階から惣さんといっしょに作っていったんですよね」(市川)。

「私と羊毛さん(市川)は性格も好きな音楽も結構違うし、制作中ってケンカが多かったんですよ(笑)。でも、今回は惣さんが入ってくれたので、ぶつかることもなくて。今回もいつもの〈羊毛とおはなチーム〉といっしょにレコーディングしたんですけど、惣さんはまず、ひとりひとりとお酒を呑むところから始めたんです。曲とか演奏の前に、人間性を理解して、関係を作っていくことが大事っていう」(千葉)。

〈もしも傷ついた時/頼る人はいますか?〉という問いかけで始まる“間違いと涙の跡”、〈祈りを集めて/消えぬように/失くさぬように〉というフレーズがゆったりと伝わり、澱んだ心が浄化されるような感覚に包まれる“積み木の家”など、〈真っ直ぐに言葉を伝えたい〉という思いに満ちている本作。そこには、人間らしさをしっかり出したいというテーマが横たわっているという。

「楽器も基本的には一発録りだし、ヴォーカルのレコーディングも、後から部分的に録り直すってことはまったくやってないんです。惣さんにも〈ずっと最高の状態が続く人生がないように、いいところも悪いところもあるのが歌。後から直すと物語がなくなる〉って言われて。歌詞も同じですね。いままでは〈僕〉っていう言葉を使うことで、絵本を読んでいるような感じを出すこともあったんですけど、それは逃げてるだけ。今回は〈わたし〉と〈あなた〉以外は使っちゃダメって(笑)。2人とも基本的に恥ずかしがり屋なので、結構大変でしたけど……」(千葉)。

「うん、〈わたし〉と〈あなた〉しか使えない、っていうのがいちばんキツかった(笑)」(市川)。

鈴木のプロデュースによって、おそらくは初めて〈そのままの自分を表現する〉ことに向き合った2人。遠回しな物言いをせず、みずからの思いをできるだけストレートに楽曲のなかに反映させる──それがもっとも美しい形で結実したのが、アルバムのタイトル曲“月見草”だろう。

「実は“月見草”は新曲じゃなくて、6年くらい前、私と羊毛さんが初めて作ったオリジナル曲なんです。まだデビューもしてなかったし、近所のカフェでこっそりライヴをやってた時期で。〈「この歌も届くよ」って〉っていう歌詞があるんですけど、まさにそういう思いだったんですよね、その頃。自分たちの原点にある曲を収録できたのは、すごく意味があると思います。あのときの気持ちを忘れちゃいけない、って思えたし」(千葉)。

「それまではカヴァー曲ばっかりだったし、プロ志向でもなかったんです。でも、この曲が出来たことで〈自主制作でCDを作りたい〉っていう気持ちにもなって。考え方が変わるきっかけになった曲なんですよね」(市川)。

結成から8年。彼らの音楽的本質を真っ直ぐに描き出した『月見草』は、羊毛とおはなの評価をさらに高めることになるだろう。

「幅を広げることができたし、自信にも繋がりました。何より、名伯楽のやり口をすぐそばで見させてもらいましたからね。次は2人だけでこれができるようになりたいです」(市川)。




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ここでは羊毛とおはなの近作を紹介します。まずは2010年夏。〈まるでリヴィング・ルームでライヴをしているかのよう〉をテーマに独特の空気感を封入したライヴ・レコーディング・シリーズ第4弾『LIVE IN LIVING '10』(Living Records, Tokyo:1)を発表。同年11月にはリヴィングを飛び出し、自然のなかで行ったライヴをアンビエント・ノイズごとDVDとCDにパッケージした『LIVE OUT LIVING』(同:2)をリリース。2011年7月には、TVアニメ「異国迷路のクロワーゼ the animation」のテーマソングで、主演を務めた声優の東山奈央とのスプリット・シングル『世界は踊るよ、君と。/ここからはじまる物語』(Flying DOG:3)という目新しい展開もみせ、8月にはスティング“Englishman In New York”など既発曲を中心としたナイティーな洋楽カヴァー集『LIVE IN LIVING for Good Night』(Living Records, Tokyo:4)を発表しています。*編集部


▼文中に登場した作品を紹介。

左から、『LIVE IN LIVING '10』(1)、『LIVE OUT LIVING』(2)、『世界は踊るよ、君と。/ここからはじまる物語』(3)、『LIVE IN LIVING for Good Night』(4)。



カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年10月19日 18:01

更新: 2011年10月19日 18:01

ソース: bounce 337号 (2011年10月25日発行)

インタヴュー・文/森 朋之