インタビュー

MAYER HAWTHORNE 『How Do You Do』



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「タイトルを『How Do You Do』にしたのは、前作に比べて今回のアルバムのほうがリスナーたちに僕のことを知ってもらえるような気がしたから。今作を通じてやっと本当の自分の声、自分らしいサウンド、メイヤー・ホーソンの個性的なサウンドを見つけられたと思うんだ」。

そうやって世界に挨拶するメイヤー・ホーソンだが、もしかしたら本国USのリスナーよりも日本の音楽ファンのほうが彼の音楽に深く親しんできているのかもしれない。ストーンズ・スロウからリリースされた前作『A Strange Arrangement』は、モータウンなどオールド・ソウルの質感を見事に再現し、スモーキー・ロビンソンやエディ・ケンドリックスを思わせる美声が披露されたエヴァーグリーンな内容を大きく評価され、来日公演も実現させている。そんな彼がメジャー流通のユニバーサル・リパブリックからリリースしたセカンド・アルバムこそ、件の『How Do You Do』だ。とはいえ、いまどき流通形態の違いぐらいで何かが大きく変わったりするわけがない。

「僕が商業的でポップになっちゃうって思う人もいるかも知れないけど、全然そんなことないから逆に驚くかもね。むしろ『A Strange Arrangement』から聴いてくれてるリスナーたちは、新作が前と違うなんてあまり思わないような気がする。今回も僕が小さい頃から聴いてきた素晴らしいソウル・ミュージックを融合していて……でもその他にも自分が好きな音楽スタイルを採り入れている。例えば、ニューウェイヴ、ジャズ、ディスコ、ブギー・ファンクとかね。すべてが混ざり合って、メイヤー・ホーソンを作り出してる」。

出来上がりだけを耳にすればストレートで企みも企てもない良質のソングブックながら、サンプリング的なセンスを存分に発揮して臨む制作行程の緻密さは変態的なものに違いない。ヴィンテージな音像にこだわって究極のレプリカを作り上げるその手腕は、もともとヒップホップ中心にトラックメイクを展開してきたメイヤーならではのものだろう。

「今作のレコーディング過程は前回とほとんど変わらない。みんながファースト・アルバムで気に入ってくれたグリットとソウルの要素を今回も採り入れたかった。だからレコーディング過程は前とほとんど同じだったけど、違いはそのプロセスが非常に改良されていたこと」。

そうやって生まれた『How Do You Do』は、彼の言葉通りにシンプルでドラスティックな変化は感じられない。ヴォーカル面ではベニー・シングスやブルーノ・マーズにも通じるストレートな歌い口も加味されているように思えるが、メイヤー独特の味わいはまったく損なわれていない。ゲスト・パフォーマーも「大好き」だというスヌープ・ドッグのみに絞られている。しかも同じオールド・ソウル好きで意気投合したのか、スヌープも歌での参加だ。

「前に彼の“Gangsta Luv”のリミックスを頼まれて、そのお礼として今回僕のアルバムに参加してくれたんだ。誰も聴いたことのないようなスヌープが聴けるよ。僕は他のアーティストとコラボをするとき、必ずそれまで彼らが見せたことのない部分を引き出そうとしている。だから今回はまさにミッション・コンプリートだね」。

アルバムは「僕らしいほろ苦い別れの曲」だという先行シングルの“The Walk”から故郷のデトロイトに思いを込めた“A Long Time”まで、喪失感やリリカルな憂鬱に着想を得ながらも、基本的にはポジティヴな地平へと希望を持って着地するような曲ばかり。それゆえに聴後感は非常に爽やかで、聴く前よりもほんの少し昂揚したような気分にさせられるのだ。そんな魔法の裏にはこんな彼の理念が隠されていた。

「僕はただ自分が楽しいと思えることに目を向けているんだ。音楽を前進させながら新しいことを試して実験して、そして世界を繋げたいって思ってるんだよ」。

 

PROFILE/メイヤー・ホーソン


79年生まれ、ミシガンはアンアーバー出身のシンガー・ソングライター。デトロイトをベースに活動を始め、ヘアカットの名でアスレチック・マイク・リーグのDJ/MCとしてデビュー。並行してナウ・オンの一員としてもリリースを重ねていく。その過程でLAに移住し、ナウ・オンの3作目『Tomorrow Already』の発表後にストーンズ・スロウと契約。2008年に“Just Ain't Gonna Work Out”でソロ・デビューし、翌年のファースト・アルバム『A Strange Arrangement』が高い評価を得る。スヌープ・ドッグやデニス・コフィ、セバスチャン、クール・キッズらとの共演も話題を集めるなか、ニュー・アルバム『How Do You Do』(Universal Republic/ユニバーサル)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年10月31日 21:45

更新: 2011年10月31日 21:45

ソース: bounce 337号 (2011年10月25日発行号)

構成・文/轟ひろみ