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インタビュー

オマラ・モクタル“ボンビーノ”


砂漠の戦士たちが垣間見せる音楽への信仰


ニジェール北部で最大の都市であるアガデス出身のシンガー/ギタリスト、ボンビーノが今年発表したアルバム『Agadez』。浮遊感と激しさが交錯するギ ター・プレイでグイグイいく曲を聴きながら、〈砂漠のブルース〉の新世代と呼ばれるだけのことはあると思った。醸し出されるルーズなグルーヴはとことん心 地よく、グレイトフル・デッドを連想させる瞬間もあって妙に嬉しくなる。アルバムのプロデューサーは、彼らのドキュメンタリー映画『アガデス、音楽と反 発』を監督したロン・ワイマン。「ふつうの一軒家でレコーディングしたんだ」とボンビーノことオマーラ・モクタールが話す。

「かつてカセットを作っていたときも、友人を招いて普段の延長のような感じで録音していたから。スタジオが嫌な理由? 考えてみてよ、ヘッドフォンをつけさせられて、僕らを何にも知らないエンジニアから「こうやれ!」とか言われたりするかもしれないんだよ(笑)。僕にとって音楽とは、楽しみながら、2時間とか時間をかけて表現しとおすもの。それに、砂漠という場所と直結した空気をそのまま表現したいと思っている」(ボンビーノ)

他の質問においても「自然じゃないことはやりたくない」ときっぱりと言い放っていた彼だが、そんなこだわりは、ペダルを使ってギターの音をいじったりすることは絶対にしないという方法論となって表れていたりもする。「トゥアレグで誰かがギターを弾き出すと、その場に居合わせた仲間が歌い出すのが自然な形。それが僕たちの原点。そこに戻って作ったのが『Agadez』さ」と話すのはパーカッションのモハメッド・セルジュ。同じ地方の出身のふたり。かれこれ15年近くも共に音楽を作ってきたそうだが、平坦な音楽人生ではなかった(2007年、トゥアレグ人の反乱が起きた際、バンド・メンバー2名が命を落としている)。いろんな困難とぶつかりながらも人生とどう向き合い、神から与えられたものを活かしていくかを真剣に考えてきた彼らの生き方は、当然、奏でる音楽の音色に多大な影響を与えてきた。

「僕らは、歌に〈耐心〉忍というメッセージで忍び込ませているんだよ」とモハメッド。忍耐心か。日本人としていまそのフレーズには大きく反応してしまうね。

「わかるよ。アフリカに〈忍耐心こそ人生の鍵である〉って諺がある。困難な状況ほど何か構築する意味があるってこと。そもそもウラニウムは僕らの国の資源。放射能の問題は日本人よりも付き合いが長いからね(笑)。この機会だから言わせてもらうね。僕らの政府はウラニウムを売ってお金を作り、国民に対して銃撃を与えてきた。僕らの問題はさらに根深いんだよ」(モハメッド)

彼らの話から伝わってくる、たえずオープンでありたいという気持ち。それは確かに彼らの音楽に通じるものだと深く感じる。そう述べると、「うん、僕たちの音楽は人生に直結している」とふたりは笑顔で声を揃えた。

掲載: 2011年11月04日 11:00

ソース: intoxicate vol.94(2011年10月10日)

interview & text:桑原シロー   撮影:石田正隆