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インタビュー

HANNI EL KHATIB 『Will The Guns Come Out』



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US西海岸発信のロックというと、レッド・ホット・チリ・ペッパーズに代表される、カラッとした開放感のある音を連想する人が多いだろう。しかし、このたび『Will The Guns Come Out』でアルバム・デビューを果たしたハンニ・エル・カティーブの描き出すサウンドは、60〜70年代のアメリカン・ロック(特にストゥージズやMC5といったデトロイト・ガレージ勢)が持っていた原始的な衝動を感じさせる、刺激的なもの。これまでの西海岸ロックに対する先入観をガラリと変えてしまうくらいのエネルギーを孕んでいる気がする。

「60年代のデトロイト・パンク的なアティテュードはすごく好きだね。労働者階級の叫びを音にしている当時のスタイルからの影響を受けて、現在のストリートの現実を伝えたい部分はある。でも、そういったパンク的な要素だけでなく、ソウルやフォークといった要素も採り入れているつもりなんだけどね」。

サンフランシスコ生まれ。スケートボーダーであり、かつては西海岸発の人気スケーター・ファッション・ブランドであるHUFのチーフ・デザイナーを務め、他にも映像や写真など音楽以外でもクリエイティヴィティーを発揮してきたハンニ。どの分野においても、60〜70年代のアメリカン・カルチャーから強い影響を受けているという。

「当時のアメリカン・カルチャーって、シンプルであることを何より大切にしていた。だから、時間が経った現在も鮮やかな刺激を与えてくれる。また、そういう原風景が潜在意識のなかに焼き付いている部分も大きいのかもしれないね」。

クラシカルなカルチャーを現代に合う表現にするため、彼は即興感を大切にしているそうだ。このアルバムも、インスピレーションの赴くままに作っていったとのこと。加えて、楽曲制作からプロデュースまですべて自身で手掛けていて、つまり本作はパンクの基本精神であるDIYに従って完成された一枚なのである。

「曲作りに関しては、基本的にあんまり深く考え込まないようにしている。きっと探求したら、〈どこで完成点を見い出したらいいのか?〉という袋小路に入ってしまうから。なので、このアルバムはパッと思いついたことを音にしているだけというか。好きなことをできるだけ生々しく、かつミニマムに表現することをめざしたよ。改めて聴き直すと〈しくじった〉と思う部分もあるけどね(笑)。でも、それはそれで当時のオレの正直な姿だから、受け入れているんだ」。

聴き手に対しても、アルバムを通じて瞬間的な閃きの大切さを伝える曲が多く収録されている。

「明日いきなり会社をクビになったり、交通事故にあったりとか、人生どう転ぶかわからないだろ? そういう状況のなかでいま自分が何をするべきなのか、社会との関わりについて綴った曲が多いんだ」。

60〜70年代のアメリカン・カルチャーへの憧憬、即興を大切にするスタイル——その魅力を彼に教えたのが、スケートボードだ。

「スケートボードは、常にオレに刺激を与えてくれる。乗っていると街の景色が違って見えるというのかな。いろんなアイデアがクリアに見えてくるんだ。それは音楽に限らず、あらゆるアート表現においてね。だからスケボーがなかったら、いまの自分はなかったと言っていいほどだよ。年老いても、これだけは手放したくないよね」。

今後はスケーター・カルチャーに根差しながらも、音楽を活動の中心にしていきたいとのこと。

「自分自身の楽曲制作はもちろんなんだけど、プロデュース的な仕事にも関わりたいと思っている。なぜなら、オレは他にもサイケデリックとかいろんな音に興味を持っているから。それら多様な音を自分だけで表現するのは無理があるだろ? 他のアーティストと感覚を共有することで、自分のさまざまな面を伝えていけたらって」。



PROFILE/ハンニ・エル・カティーブ


79年生まれ、サンフランシスコ出身のシンガー・ソングライター。幼い頃よりスケートボードに親しみ、プロスケーターのキース・ハフナゲルが立ち上げたアパレル・ブランドのHUFで5年間デザイナーを務める。その傍らストリート・ライヴを行うようになり、2010年にストーンズ・スロウのサブ・レーベル、イノヴェイティヴ・レジャーからファースト・シングル“Dead Wrong”を発表。〈SXSW〉や〈ボナルー〉への出演を経て、2011年6月にはナイキのキャンペーン〈CHOSEN〉のテーマソングに、7月にはコンバースのTVCMソングに楽曲が起用されて注目を集める。このたびファースト・アルバム『Will The Guns Come Out』(Innovative Leisure/HOSTESS)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

ソース: bounce 339号(2011年12月25日発行号)

インタヴュー・文/松永尚久