インタビュー

アリッサ・グラハム

クレイグ・ストリートによるプロデュースの新作

アリッサ・グラハムの新作『ロック、ストック・アンド・ソウル』は、08年のジャズ志向の『エコー』とは趣を変え、フォーク・ロック寄りのシンガー・ソングライターのアルバムとなっている。「(前作は)音楽学校でジャズを学んだばかりで、周りにジャズマンがたくさんいたので、一緒にやりたかったのね」と、ジャズ歌手の顔は彼女の一部でしかないようだ。最も影響を受けたアーティストはあの孤高のロッカーなのだから。

「ニール・ヤングの大ファンなの。(ギタリストの夫)ダグと私の英雄よ。彼の全アルバムを聴いて育ったわ。本当に誠実なアーティストだと思う。ソングライティングにおいてはシンプルであることが美しく、心を強く揺さぶるという素晴らしい例ね。それとニック・ドレイクも大好きよ」

新作では彼らとジョアン・ジルベルトという3人をなんとかして一緒にしたようなアルバムを目指したというが、「彼女の作品を聴いて、その感性や官能性を探究した」というフランソワーズ・アルディにも大いに刺激されたそう。そう言われれば、セクシーなジャケ写真はアルディ風にも見える。「彼女はファッション・アイコンでもあったから」と、アリッサは意識したと認める。

プロデューサーにはクレイグ・ストリートを迎えた。「カサンドラ・ウィルソンの『ニュー・ムーン・ドーター』が大好きで、彼のファンだったの。マネージャーの知り合いの知り合いが彼を知っていた(笑)。最高の選択だったわ」

クレイグのスタジオ・ライヴ的に制作する「生々しいサウンド」に惹かれていたそうだが、新作の録音はミシェル・ンデゲオチェロを含むバンドとの「魔法のような5日間」だったという。

「全員が円を描くように座って、歌手も隔離された場所じゃないの。ギターとドラムズの隣で歌ったから、後で手直しできない。歌も全部ライヴよ。直したい箇所はあったけど、不完全なものにも美しさがあると理解できるようになったわ」

クレイグの貢献はサウンドだけではなかった。

「自作曲に満足できず、曲を書くのをしばらくやめていたの。多作家のダグにまかせていた。でも、ソングライティングとは自分の感情を探って何かを表現することで、その何かはシンプルな考えでもいいと、クレイグが思い出させてくれたの。ジャズを学び、曲は複雑で巧妙であるべきと考え、シンプルな曲にはそのシンプルさに美しさがあると忘れていた。彼の励ましで自信を回復したの」

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年01月11日 19:33

ソース: intoxicate vol.95(2011年12月10日発行)

取材・文 五十嵐正