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インタビュー

MA'AYAN CASTEL 『Walk On Water』



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[ interview ]

レゲエやヒップホップを下地にした多様なサウンドと独特のメロディーを織り成すイスラエル出身の才女、マーヤン・キャステル。世界中を旅すると同時に、世界中の音楽を旅してきた彼女のファースト・アルバム『Walk On Water』は、民族やカルチャーの不幸な断絶を乗り越えるべき時代ならではの、新しくて無国籍なエクレクティック・ソウルで満たされている。


自分で歌うしかなかった



マーヤン・キャステルというシンガー・ソングライターの名前を知る人は、まだ彼女が住むアメリカでもごく限られているのだろう。でも1年後にはどこまで出世しているのか、未知数の可能性を秘めた新人であることは間違いなく、そういう人の作品に本国より一足早く触れることができるのは、ある意味幸運なのかもしれない。日本先行でファースト・アルバム『Walk On Water』を発表するマーヤンは現在はLAを拠点に活動しているが、生まれ故郷はイスラエルのハイファ。9歳の時に家族とアメリカに移り住み、音楽好きの両親の影響もあって幼少期から歌を歌ったり楽器を弾いたり、色んな形で音楽に親しんできたとか。そしてハイスクールを卒業するとボストンにあるお馴染みの名門校、バークリー音楽院に進んでいる。そこでギターとミュージック・シンセシスを専攻したという、そのチョイスが興味深いところだ。

「〈ミュージック・シンセシス〉って耳慣れない言葉かもしれないけれど、早い話が〈サウンドの科学〉の勉強って言えるのかしら。音波のメカニズムを学んだり、さまざまなテクノロジーを使って音を操作する方法を学んだり、コンピューターを使って音楽を鳴らす作業に多くの時間を費やしたわ。それに、異なるメディアを組み合わせたインタラクティヴなパフォーマンスにも私は関心があって、いろいろ実験的な試みをしたものよ。と同時にレコーディング技術やエンジニアリングについても学んだから、スタジオで不自由を感じないの。さすがに女生徒は少なかったけれど(笑)、コンピューター・エンジニアだった両親から受け継いでいるものがあるのか、エレクトロニックなメカニズムに昔から興味深々だったし、いまはすごく役に立ってる。自宅でレコーディングしたり、プログラミングや編集をしたり、何でも自分の手でできるから」。

従ってバークリー時代はどちらかといえば〈ギタリスト兼コンポーザー〉と呼べる立ち位置にあった彼女だが、その傍らで長年たくさんの詞を書き溜めていたそうで、「最終的にはそれらを自分で歌うしかなかったのよね」と笑う。また、授業の一環としてSanctum Soundなるスタジオでインターンを経験した際に、オーナーであるふたりのプロデューサー――ワイクリフ・ジョンからジョジョまで主にヒップホップ/R&B系アーティストとコラボしている、レオ・メラスとスティーヴ・カティゾーン――と意気投合したこともひとつのカタリストとなり、3人でパートナーシップを組んで、卒業から間もない2008年にデビューEP『Walk On Water』を発表。シンガー・ソングライターとしての活動を本格化するに至った。このたび日本で登場する同タイトルの作品は、EPの収録曲を核に、新しい曲を追加する形で作り上げたフル・アルバムだ。

もちろんマーヤン自身もプロダクションに深く関わりつつ、レオとスティーヴに加えて、ライヴでも一緒にプレイしているというバークリーの同窓生らの参加を得て完成させた本作は、ちょっと一言や二言では表現しにくい。エレクトロニックなテクスチャーとアコースティックな楽器の響きを継ぎ目なく織り交ぜて、レゲエを筆頭にヒップホップ、ジャズ、R&B、ロックなどなど多彩なジャンルの要素を引用しており、随所に世界各地の音楽の匂いを漂わせ、“Devil’s Pie”ではオスマン・トルコの音楽に根差したメロディーを採り入れ、“Courage”はボサノヴァを独自に解釈したり……。そう、曲ごとにクリアだったりスモーキーだったり、さまざまな色を帯びる個性的な歌声も相まって、折衷志向を極めた無国籍な感覚で満たされている。


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掲載: 2012年01月25日 18:01

更新: 2012年01月25日 18:01

インタヴュー・文/新谷洋子

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