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インタビュー

ヴィム・ヴェンダース(映画監督)


ヴィム・ヴェンダース×ピナ・バウシュ 映画と舞踊が異色のコラボレート

 

 

映画監督ヴィム・ヴェンダースと舞踊家ピナ・バウシュ。ドイツを代表する二人のアーティストが出会ったのは必然といえるかもしれない。ピナのダンスに感銘を受けたヴェンダースは、ピナの舞台を映画化することを彼女にもちかけるが、そのアプローチを考えあぐねているうちに20年近くの月日が経ってしまう。そんななか、ヴェンダースが注目したのが3Dという新しい技術だった。U2のライヴ映画『U2 3D』を見て、「3Dなら舞台空間の広がりを表現できる!」と思いついたヴェンダースは、ついに今年、ピナとの約束を守って『ピナ・バウシュ/踊り続けるいのち』を完成させた。舞踏と3D映画。一見途方もない思いつきのようだが、その相性の良さは、映画をみれば誰もが納得するはずだ。ステージの奥行きやダンサー同士の距離感が3Dという手法に寄って肉付けされ、スクリーン(平面)は魔法の箱となってジオラマめいた不思議な空間を作り出す。それはまさに、新しいテクノロジーが生んだ新しいタイプのドキュメンタリーだ。そういえば、ヴェンダースの08年作『パレルモ・シューティング』では、主人公の写真家が最新のデジタル技術を駆使して作品を生み出していたが、あれはヴェンダース自身だったのかもしれない。

「テクノロジー自体が重要なのではなく、そのテクノロジーによって、何が可能になるかが大切なんだ。これまで言えなかったことを言える可能性を与えてくれるようなテクノロジーならば、そのテクノロジーはビューティフルで、すごく意味があると思う。今回の映画がその良い例で、3Dだったからこそ自分がやりたいことを表現できたんだ」

ヴェンダースは『アバター』を何度も観て3D映画の強みや弱点を研究したらしいが、偶然にも、ヴェンダースの盟友、ヴェルナー・ヘルツォークも同じ時期に3Dでドキュメンタリー映画を撮影している。二人は3D映画の可能性について話をしたこともあったらしい。「結局、彼は3D撮影には満足できなくて2D映画に戻っていったけど、私は今回の映画で自分がやりたいことをやれた。私はこれからもこの〈言語〉を使っていきたいと思ってる」。そんなヴェンダースの言葉からは、二人の作家性の違いが伺えて興味深い。ともあれ、3Dで再現されたピナとヴッパダール舞踏団のダンスの素晴らしさには、ただただ圧倒されるばかりだ。撮影の準備中にピナが亡くなり、一時は撮影中止も考えられたらしいが、ダンサーたちの強い要望に支えられて映画製作は続行された。

「もし、ピナという国があるとしたら、ダンサーたちは大使みたいな存在なんだ。代表者としてピナの意志を受け継いで表現していく、という新しい役割を今の彼らは自覚している。そして、そのことに対する自信を、この映画の撮影を通じて得たんじゃないかと思う。後継者としての自覚をね。私自身

もこの映画では、ピナの仕事がいかに美しく、素晴らしいかを見せることに専念したつもりだよ」
映画では、ダンサーたちは舞台を飛び出して、街頭や工場、公園、石切場など、ピナと舞踏団の拠点となった街、ウッバダールのさまざまなロケーションで踊る。そうやって、ダンサーを自然環境のなかにおくことで、ピナのダンスに潜む風景やエモーションを映像化する演出は、映画とダンスの華麗なるコラボレーションだ。

「自然のなかで踊る、ということは、これまでダンサーが舞台でやってきたこと。本物の自然のなかで踊る心構えは、すでに彼らにはできていて、映画のロケーションにもためらわず挑戦してくれたんだ。ピナは舞台のうえだけでダンスを考えたりはしなかった。いつも街行く人たちの動きに興味を持ち、何時間もかけて観察しながら、人間の魂の在り方を考えて、それを舞台にしたんだ」
ヴェンダースやダンサーたちのピナに対する思いに支えられて完成した本作は、ピナ・バウシュという希有なアーティストに対する美しいトリビュートともいえるだろう。ピナとの出会い、そして、交流について、ヴェンダースはこんなふうに振り返ってくれた。

「初めて会った時、ピナは謎の人物だったから怖かったよ(笑)。彼女は喋らずに煙草を吸い続けていた。彼女に見つめられると嘘がつけない、心のなかを見通されてしまうみたいな感じなんだ。でも、彼女はとても親しげで優しかったよ。その後、25年間の付き合いのなかで、ピナは自分にとって姉みたいな感じになってきた。話をしていると、同じ地方で生まれているから子供の頃の訛りが出てきて、お互いに幼い昔に若返ったような感じなんだ。一番印象に残っているのは、彼女は知り合った時から、とにかく働く量が並じゃなかったことだ。年がら年中働いていたよ。そして、彼女はよく笑う女性だった」

きっと、ピナが生きていたら、〈弟〉が手掛けたこの作品を観て優しく微笑んだに違いない。

 

映画『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』

監督・脚本・製作:ヴィム・ヴェンダース
振付:ピナ・バウシュ 音楽:トム・ハンレイシュ/三宅純
出演:ピナ・バウシュ/ヴッパタール舞踊団ダンサー/他
配給:ギャガ GAGA★(2010年 ドイツ、フランス、イギリス 104分)

◎2012年2/25(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9、横浜ブルク13ほか全国順次3D公開

©2010 NEUE ROAD MOVIES GMBH, EUROWIDE FILM PRODUCTION

 

 

 

 

 

 

 


カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年02月05日 21:26

ソース: intoxicate vol.95(2011年12月10日発行)

interview&text:村尾泰郎