Fragment 『Narrow Cosmos 104』
初のインスト作に広がるビートの宇宙
昨年はCOASARUからゆーきゃんまでヴァラエティー豊かな面々の作品を精力的に世に出し、信頼を高めている術ノ穴。そして今年最初のアルバムは主宰者コンビ=Fragment自身の新作『Narrow Cosmos 104』となった。昨年秋の『鋭 ku 尖 ル』から半年足らず。キャラの立ったビートを作る異能のクリエイターというイメージの強さゆえに不思議ではないが、一枚を全編インストで固めるという試みは実は今回が初めてとなる。
「いままではMCとのコラボありきのトラックメイカーだったのが事実なので、言ったらひとつの挑戦です」(kussy)。
その挑戦は言うまでもなく吉と出ている、というか、いつも通りに鋭く尖ったFragmentがいるという印象だ。LA系ビートやドープな音響トロニカ、ポスト・チルウェイヴなど、さまざまなタームとの同時代性ももちろん感じられる。が、「新譜や新しいアーティストは凄くチェックしますし、おもしろいアイデアは何でも採り入れていこうという姿勢ですが、物真似な音にならないようには心がけてます」(deii)という謙虚な発言とは裏腹に、それもこれも彼らがデビュー時から追求してきたものが自然に時代と共振した結果の産物ではないか。それは7年前のEP収録曲“Polygonair”が初CD化音源として違和感なく並ぶ様子からもわかる。
「“Polygonair”はいま聴いても新鮮で発見がありました。ただ、今回はアルバム自体に、あの頃に近い初期衝動感があった気がします」(deii)。
オリジナルの8曲に加え、術ノ穴からリリースのあるogiyyとGeskia!、さらにフライング・ロータスとの絡みで知られるQuarta330という3者のリミックスも含めた充実の仕上がり。そんな全11曲を結ぶ『Narrow Cosmos 104』という表題の意味は? 「104は術ノ穴の事務所の部屋番号なんです。Narrow cosmos=狭い宇宙=術ノ穴事務所(笑)。面積は狭いけどアイデアさえあれば無限だね!っていう意味です」(kussy)。
無限の広がりを見せる宇宙にアイデアを浮かべて、彼らはさらに鋭く尖り続けてくれることだろう。
▼関連盤を紹介。
左から、Fragmentの2011年作『鋭 ku 尖 ル』、val×ogiyyの2011年作『taste of freedom』、Geskia!の2011年作『ALIEN』(すべて術ノ穴)
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2012年02月15日 00:00
更新: 2012年02月15日 00:00
ソース: bounce 341号(2012年2月25日発行号)
インタヴュー・文/出嶌孝次