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インタビュー

神保彰

オリジナルとカヴァー集を2枚同時にリリース

もし、ミュージシャンの好感度ランキングというのがあったら、おそらくその上位を争うのがドラマーの神保彰だろう。爽やかな音楽性と最高の技術だけではなく、その人となりが気持ちいい。

その神保彰の新作が2枚同時に発売された。オリジナル集の『スマイル・スマイル』と初のカヴァー集『ジンボ・デ・カヴァー』で、いずれもその魅力を知るに はかっこうのアルバムだ。オリジナル集は、今回の大地震が創作のきっかけになっている。笑顔をとり戻そうという願い、絆の大切さ、そして、ゆったりとした 平和な時間の歓びのようなものが綴られているが、実は神保一家にとって、石巻は第2の故郷ということで、ここには尋常ではない思いが重ねられている。

一方のカヴァー集は、ニューズウィーク誌の〈世界が尊敬する日本人100人〉の一人に選ばれた神保彰の特異な才能、ドラムによるソロ・オーケストラが土台になっている。毎年100箇所前後公演で走り回る神保だが、300曲もたまったそのレパートリーの中から定番曲をピックアップして作られたということだ。 ただ、これは単にいつもの演奏を収録したものではなく、基本的にトリオの演奏とプログラミングの新たな統合が試みられている。つまり、生身の音楽のニュアンスとプログラミングが合体する面白さの追求だ。下準備は大変だったが、長年積み重ねられたアレンジのノウハウが、ここで最高に発揮されている。

さて、大地震がきっかけのアルバムといっても、とくに熱いメッセージがあるわけではない。また、カヴァー集で展開される曲も特別の脈絡があるわけではない。東京のクールな風景を歌ったり、クラシックのテイストを遊んだり、カヴァー集も、《パイレーツ・オブ・カリビアン》に始まり、ラヴェルの《ボレロ》そして、《上を向いて歩こう》と何ともとりとめがない。けれど、そのとりとめのなさにいかにも神保彰らしい世界がある。

今は気持ちが折れてはいけない時代という。けれど、元気出せではなく、落ち込み禁止と引いた言い方が楽しい。ドトール・コーヒーとコラボした曲も、「がんばる人のがんばらない時間」というドトールの素敵な標語に反応し、がんばらないで作ったというのも神保らしい。ドラム・オケの大技を夢中になって生み出した神保だが、でもその音楽の心は闘いではなく、生きることの半分は優しくなければいけないということのように思える。これらはそんな神保彰の音楽なのだ。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年02月22日 14:41

ソース: intoxicate vol.96(2012年2月20日発行号)

取材・文 青木和富