MY BEST FIEND 『In Ghostlike Fading』
広大な宇宙を思わせるサイケデリックなバンド演奏と、哀愁たっぷりのヴォーカル——ワープ発の新人5人組が、インディー・ロック界に新たな歴史を刻む!
まず、その新人離れした演奏力とサウンドの緻密さに驚く。前衛的な音楽の生まれる場所・NYはブルックリン在住、このたびワープよりデビューを飾ったマイ・ベスト・フィーンドは、オルタナティヴ・ロック・シーンの今後を担うバンドとなりそうだ。
ドイツ映画の巨匠、ヴェルナー・ヘルツォークが撮影したドキュメンタリー・フィルム「キンスキー、我が最愛の敵(原題:My Best Fiend)」をバンド名の由来とするこの5人組。彼らが放ったファースト・アルバム『In Ghostlike Fading』は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやピンク・フロイドなど偉大なるロック・レジェンドから、スピリチュアライズドにテイム・インパラといったネオ・サイケデリア勢までを彷彿とさせる至高の一枚となった。
「アルバムに通じるテーマの大部分は、都市での生活についてかな。人間関係とか、疎外感とか、何かに属することとか……。あとは、アルバムが完成するまで自分では気付かなかったようなものもある。信仰とかさ」(フレデリック・コールドウェル、ヴォーカル/ギター:以下同)。
そう言われてみれば、歌詞には宗教的なキーワードが(おそらく)無意識的に散りばめられている。コールドウェルは敬虔なカトリック教徒の母のもとに生まれ育ったそうで、初めて触れた音楽は教会の聖歌隊が歌うゴスペルだったとのこと。それでも彼の書いた歌が(カトリック教徒でないリスナーの耳にも)すんなり馴染むのは、極めて普遍的な言葉とエモーションに溢れているからだろう。
「自分の音楽や人生観が、宗教とかそういう世界に直接繋がっているとは思えないね。影響を受けるものは、やっぱり自分の周りにあるものすべてだし。このアルバムでは、小説家のマルセル・プルーストやヘンリー・ミラーにかなり影響された。アートならコンテンポラリーからホイッスラーなんかの古典派も好きだよ」。
彫刻の学校を卒業した彼は、現在もチェルシーのアート・ギャラリーで働いているのだとか。音楽や映画、文学はもちろん、さまざまな芸術への造詣の深さがマイ・ベスト・フィーンドを唯一無二の存在たらしめている。
「アートを作る時って頭を空っぽにしたり、固定観念を取り払うことも必要なんだよ。それでも自分のなかにあるものやリアリティーって、自然と作品に反映されるんだよね」。
『In Ghostlike Fading』にはギャング・ギャング・ダンスやMGMT、ベイルートなどの諸作を手掛けてきたマット・ボイントンが共同プロデューサー/エンジニアとして参加し、エディットはマットが所有するウィリアムズバーグのスタジオで行われた。幾度もオーヴァー・ダブを重ねたウォール・オブ・サウンドや、美しいコーラス・ワークは時代性さえも超越する。スティーヴ・アルビニ録音の2010年作『Heavy Meadow』が日本でも絶賛されたヴィオラ奏者のアンニ・ロッシを筆頭に、チェリストのダニー・ベンシ、!!!などとも共演するシャノン・サンチェスといった、ストリングス奏者&女性ヴォーカリストたちの客演も聴きどころだ。そんな本作を作るうえで、コールドウェルがお手本にしたアルバムは、意外にもニール・ヤングの『On The Beach』(74年)だったという。
「あんな良い作品を一部だけピックアップして評価するのは難しいけど(笑)、強いて言えばサウンドや音符の間にあるスペースと息継ぎかな。人間らしさを感じるんだ。そういうのって、最近の作品には失われているものだと思うんだよ」。
▼関連盤を紹介。
左から、ギャング・ギャング・ダンスの2008年作『Saint Dymphna』(The Social Registry)、MGMTの2010年作『Congratulations』(Columbia)、アンニ・ロッシの2010年作『Heavy Meadow』(3 Syllables)、ダニー・ベンシが参加したアルボーティアムの2011年作『The Gathering』(Thrill Jockey)
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2012年03月07日 00:00
更新: 2013年03月07日 00:00
ソース: bounce 341号(2012年2月25日発行号)
インタヴュー・文/上野功平