田我流 『B級映画のように2』
仏ナント三大陸映画祭の最高賞受賞はじめ各地映画祭での好評を受け、日本各地で上映が続く「サウダーヂ」。そこで映画初出演ながら主役を演じたことはstillichimiyaの田我流にとって何よりの追い風となった。加えて、ソロとして評価を受け、みずからも出来に納得した『作品集-JUST-』に続くものといえば、空洞化した地方の憂いを映した自画像たる(それこそ「サウダーヂ」とも地続きな)続編アルバムを作っても何らおかしくはなかったろう。しかし、田我流の興味はそこになかった。アルバムの録音が十数曲を数える頃に起こった、震災にまつわる一連の出来事も彼には大きかったのだ。結果、そこまでの録音はことごとく破棄され、作品はゼロからのスタートに。曲作りはみずからの暗部を突き通し白日にさらしていくものとなった。
「アルバムを作りはじめたら震災が起こって、それで全部一気に変わっちゃった。死が太陽みたいに人の心を照らして、いままで自分が隠していたもの、社会が隠してきたものも表面化させて、いままで通りじゃ物足りなくなったと思うんですよ。そこで気付けたのはいつ死ぬかもしれないってことと、社会がいかにクソかってこと。わかってたけどここまでクソだったみたいな」。
一日一日を淡々と過ごし、人それぞれが夢や選択肢を見つけていける日々は、先細っていく未来と共に、その豊かさを見失う。ようやく完成を見た田我流のセカンド・アルバム『B級映画のように2』は、まさにその、淡々とした日々とその先にあると信じた豊かさが現実のなかで脅かされていること、そしてその事実に向き合い、一つ一つ身をもって戦うことがそれを勝ち取る術なのだということをまざまざと伝える。SIMI LABからQN、OMSB'Eats、MARIAを迎えた“ハッピーライフ”にふと差す平和な日常も、アルバムでは長く続かない。
「これは次から次に〈いやなもの〉が表面化してしまうアルバム。それを聴く人それぞれのなかで物語化してってもらえればなって。一個一個反省しないかぎり人間って同じことを繰り返す。それを狂気って呼ぶ人もいるけど、そういう世の中とは真反対の挑戦状的な意味はありますよね。突き刺す内容が多いし、このアルバムのなかで物凄い数の人間を音楽で殺したし」。
映画の世界からもネタを借り、さまざまな比喩表現でまさしくB級ムーヴィーばりのヴィジュアル・イメージへと結び付けて怒りを放つ“パニックゲーム”。曲を書いてる際に自然とその姿を思い浮かべたというECDとの“Straight outta 138”における、あまねく社会への容赦ない攻撃。さらに、stillichimiyaの面々を招いてやみくもなエネルギーを詰めた“やべ〜勢いですげー盛り上がる”にすら表れる〈俺らこんな世の中まっぴらなんだよ!〉というライン。あるいは、いまこの時に符号するメッセージともなりうる隠しトラック“教訓I”(加川良)のカヴァー。ラストを優しく包む“夜に歌えば”の〈きっと何かが変わりだす〉という囁きも、聴き進めたアルバムの流れを以て、故なき絵に描いた餅を越える。
「批判される部分はもちろんあると思うけど、ラッパーは街の代弁者。(忌野)清志郎さん亡き後ラッパーが言わなきゃ誰が言うんだよって本気で思ってるし、新聞やTVもここまでかみたいな感じじゃないですか、実際。そうなった時には一人一人が政府みたいな話で、それってまさに昔ヒップホップが出てきた時のシチュエーションだと思う。いま必要とされてるのに俺たちがやんなかったら……っていうのもめっちゃありますよね」。
個を正していくことで大きな物事と対峙する。結局のところそれは自分の生を取り巻くすべてに自分が責任を持つという、本来あたりまえの振る舞いへと立ち戻ることに他ならない。そして『B級映画のように2』は、その生に込めたエネルギーで聴く者を震わせ、心を奮い立たせるのだ。
PROFILE/田我流
山梨は一宮町を拠点とするラッパー。高校卒業後に渡米し、帰国後の2004年に地元の仲間と結成したstillichimiyaでファースト・アルバム『stillichimiya』を発表。クルーで作品を重ね、“D.N.I”が『CONCRETE GREEN 3』に収録されたことをきっかけに脚光を浴びる。2007年にファースト・ソロ・アルバム『JUST』をリリース。2009年にはMary Joyからstillichimiyaのミニ・アルバム『天照一宮』を発表し、並行してDJ TOPBILLやマイクアキラ、ZIPSIES、QN from SIMI LABらの楽曲に客演していく。2011年公開の映画「サウダーヂ」で主演のひとりを務め、高い評価を獲得。さらなる注目を集めるなか、セカンド・ソロ・アルバム『B級映画のように2』(Mary Joy)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2012年04月18日 00:00
更新: 2012年04月18日 00:00
ソース: bounce 343号(2012年4月25日発行)
インタヴュー・文/一ノ木裕之