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インタビュー

伊藤ゴロー

『GLASHAUS』は伊藤ゴロー史上、もっとも美しいアルバムである。そう断言してしまっても、ゴローさんならきっと笑って受け止めてくれると思う。自身が愛してきた〈ロック〉にオマージュを捧げた『Cloud Happiness』に続くソロ名義作は、前作同様にこれまで愛してきたさまざまな音楽のエッセンスを表現しようとする試みも散見される。とにかく、かつてないほどエレガントなインスト・ナンバーがひしめき合っており、極上のメロディーをとびきりの演奏で聴かせてくれる大変完成度の高いアルバムに仕上がっている。
「今回のアルバムは、しっかりとギターを弾こうというコンセプトがあって。これまでギターにポイントを置いて作ろうとしたことがなかったから、相当違うものを作るって意識が働いたんです。ギター1本でも成立する曲をしっかり作ってからいろんな音楽家と共演しようって考えもあったので、いままでより作り上げた感はありますね。ただ、結果そうなったのは、共演者たちの力量がすごかったことが大きかったかも(笑)」

今年の1月にリオデジャネイロで行った録音がメインとなっている本作。アルバムのあちこちではジャキス・モレレンバウムが奏でるチェロの音色が聴こえ、彼の手がけたストリングス・アレンジを味わうこともできる。そして、ジョルジ・エルデルのベースの響きを楽しめるし、マルコス・ニムヒリターのピアノに浸ることもできる。挙句の果てには、アンドレ・メマーリのピアノまでが登場するのだから、音楽的快感のレヴェルがどれほどのものであるかを容易に推し量ることができるだろう。その名を書き連ねているだけで何やら美しい音色が聴こえてくるような気にさえなる、現代ブラジル音楽シーンで活躍する一流どころ。ほとんどの楽曲はレコーディング参加者を念頭において書かれたそうだが、コンポーザーとしての野心に火がついたのだろうと思わせる局面も多々あり、普遍性の高いメロディが揃うことになった。

「曲を聴いて〈ブラジル音楽っぽい〉と思われるようなものにはしたくないって気持ちはあった。自分としてはより〈開いた〉感じで、幅広いものをやったつもり。今回は、マルコス以外はこれまでに共演したことがあるメンバー。録音は、ワンテイクしかない曲もあるし、多くてもふたつぐらい。最初に出した音で完成まで持っていくパワーがあるというか、彼らの集中力に引っ張られたところもあった」

曲のエッセンスを汲み取って鮮やかな物語を描き出すことに長けた演奏者揃いだが、アンドレ・メマーリとの作業は特に印象に残っている模様。

「彼は若手ナンバーワン。演奏にキレがあって、音に自信が漲っているんですよ。ナオミ&ゴロー&菊地成孔の『calendula』にも参加してもらったんですけど、イメージの湧き出してくるスピード感がものすごい。そこはやっぱりブラジル人、キラー・パスがスパッ! と足元にピンポイントで来る。言うなれば、ピークの頃のロナウド。ボールをキープしてひとりでシュートまでいっちゃう。勝手に(笑)。ちょっと待て、いろいろ段取りがあるから、ってなりますよね、こちらは(笑)」

このギタリスト/コンポーザーの作品からは、いつだって新しいことにチャレンジしたいといった好奇心を発見することができるが、「しっかりとコンポーズしたものをやりたいという思いが叶えられた」と語る本作も例に漏れず。ジャズ、クラシック、ブラジル音楽などをベースに、既存の枠組にとらわれない音楽作りをめざすここでの彼は、いつものように若々しい表情を浮かべている。一方、「曲を作るときにイメージはあえて設定しない。風景をはっきりさせたくない」といったこだわりの面については、変わらず一途なまでの頑固さを感じさせてくれて嬉しくもなる。ところで、ゴローさんにとって理想とする音楽の形とは?

「すごく静かな音楽でも、〈強いもの〉が好きですね。耳がガッチリ掴まれる音楽というか、その部分がないと駄目。〈このメロディを聴いて悲しくなれ!〉というような図々しい強さじゃなくて、意思を感じさせてくれる音楽というか。例えば、聴き手の想像を裏切るようなハーモニーや旋律の展開。それって意思の表れですよね。人を動揺させるものに惹かれるんです。それは自分も曲のなかで意識しているのかも。そういうアーティスト・エゴというか、いいメロディを聴かせたいといった強気な気持ちは、弱いですけど、確固としてある。わりと主張をしているんですよ、人に気づかれないような小さい部分で。意外に闘争心を持った人間で、ある意味で今回も働きまくっているんですけどね」

詩人、平出隆のアートワークによる美しいジャケットに包まれた『GLASHAUS』。現在は「どんどん作りたい気持ちに火が点いた感じ」だというゴローさん。彼の活発な好奇心はいつだってわれわれを刺激してくれる。

LIVE INFORMATION
『GLASHAUS』発売記念ミニ・ライブ
5/5(土)20:00開場/20:30開演  入場無料
出演:伊藤ゴロー
トーク:ドナルド・エヴァンズ「もうひとつの世界」への旅
出演:平出隆 × 伊藤ゴロー

SPIRAL RECORDS presents  Goro Ito『GLASHAUS』発売記念
平出隆《FOOTNOTE PHOTOS》展
──葉書でドナルド・エヴァンズに写真と郵便による「もうひとつの世界」への旅
5/2(水)〜5/6(日)11:00〜20:00  入場無料
※5/5(土)のみ、関連イベント開催のため22:00まで

photo by Katsuhiro Ichikawa

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年04月24日 18:06

ソース: intoxicate vol.97(2012年4月20日発行号)

取材・文 桑原シロー