ドクター・ジョン
円熟にして全盛。ニューオリンズのマエストロの新作
この人ほど、老若男女を問わずに尊敬されている人も珍しい。ニューオーリンズ音楽の重鎮、ドクター・ジョンだ。新作『ロックト・ダウン』も、ブラック・キーズのダン・オーバックがプロデュースを申し出たことで話題だ。
「彼がニューオーリンズまで来てくれてね。一緒にレコーディングしたんだが、その時のはどれも使わずに終わった。ただ、そこからアイディアが湧いて、今度はナッシュビルの彼のスタジオに出向いて作ったわけさ」
いま最も旬と言われるブラック・キーズだ。新作『エル・カミーノ』にあわせたツアーでは、マディソン・スクエア・ガーデンでのチケットが僅か15分で売り切れた。その彼との共同作業──ただし、どういうアルバムにしようか、そんなことは全く考えなかったという。
「スタジオに入り、音楽が連れて行ってくれるところでやれることをやる、それでいい。昔は、誰もがそうやってレコードを作っていたものさ」
また、「音楽は余り裕福でない人間、こだわらなければならない物を多く持てない人間から生まれてくる」という彼は、こうやって若い人たちを前にしても偉ぶらない。だからこそ、『ロックト・ダウン』は、71才にして大切な何を再発見したかのような、生気みなぎる傑作となった。
「誰かから学べるものがなくては、ぼくの音楽は何処にも進まない。彼らもまた、誰かから学ばなければ進むことはできないんだ」
昨年は、ロックの殿堂にも迎えられた。
「ジョー・テックスなくして、ジェイムス・ブラウンもジャッキー・ウイルソンもいなかった。ぼくもソングライターとして助けられた。てっきり、彼は殿堂入りしているものだと思っていたよ」
近年、ボビー・チャールズにハーマン・アーネストと掛け替えのない友人を相次いで亡くした。
「いまだに、『良いアイディアがあるんだ』というボビーからもらった留守番電話のメッセージは残してあるよ。この携帯電話が壊れないかぎり、大事にとっておく。遠距離電話越しに曲を共作したのは、彼一人だ。同じ街にいなくても、電話で沢山曲を書いた。ハーマンは、バンドのメンバーをいつも笑わせていた。いまでも、彼の母親とは週に一度は会話をする」
ハーマン・アーネストにかわるメンバーたちを率いての来日公演では、例の転げるような音色でピアノを弾き、踊り、ギターまで演奏した。