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インタビュー

グレッチェン・パーラト

呼吸するように流れる新世代のジャズヴォーカル

声域が広いわけでもなければ、声量が豊かなわけでもない。だが、呼吸を思いのままにコントロールし、囁きのようなヴォーカルをいとも簡単に変拍子やヒップホップのリズムに乗せ、息を吐くだ
けで麗しい「歌」を生み出す。ジョアン・ジルベルトの歌唱と、マイルス・デイヴィスのミュート・トランペット。この二つを同時に想起させるヴォーカル、とでも言おうか。しかも外見はクール・ビューティだが、ヴォーカルは潤いや色香をたたえており、技巧派でありながらテクニックよりより情感で聴き手を酔わせる。こんなグレッチェン・パーラトは、現在のジャズ・シーンの中でも、傑出した“ソング・スタイリスト”だ。

「音楽というのは、音と沈黙の両方で成り立っている。私は沈黙を重視していて、必要以上に自分の歌でスペースを埋めないようにと心がけています。その意味でも、ジョアン・ジルベルトとマイルス・デイヴィスを引き合いに出してくれて、とても嬉しい。私も彼らと同じように静寂の美しさを追求していきたいと思っているから」

グレッチェンは、ウェイン・ショーターの曲に自作の歌詞を付けて歌い、メアリー・J・ブライジの曲をキックの強いドラムスをバックに歌う。そしてブラジル音楽の名曲にも、新しい生命を吹き込む。前作『イン・ア・ドリーム』では、『ゲッツ/ジルベルト』に収録されている《ドラリセ》をカヴァーしているが、彼女がこのスタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトの共演盤を初めて聴いたのは14歳の頃だったという。

「あのアルバムを聴いた瞬間、ジョアンに恋をしたわ(笑)。とても静かな音楽なのに、私の心の琴線に触れた。その頃の私は、引っ込み思案だったの。でも『ゲッツ〜』は、そんな私にも何かができるかもしれないと思わせてくれた。その意味でも、私にとって大切なアルバムです」

最新作『ロスト・アンド・ファウンド』に収められているパウリーニョ・ダ・ヴィオラ作の《アロー、アロー》。このサンバのカヴァーはグレッチェン独自のヴォーカリゼーションが堪能できる名演だが、彼女の歌にはヨガの影響があるという。

「ヨガのレッスンは20歳の時からやり続けているから、もう16年になる。もちろんヨガの呼吸法も役に立ってるし、そもそも私にとって歌うという行為は、体を動かしながら瞑想するようなことであり、一種のセラピーでもある。その意味でも、私の歌とヨガは切り離せない関係にあるの」

写真提供/COTTON CLUB
撮影/熊沢 泉

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年05月19日 18:40

ソース: intoxicate vol.97(2012年4月20日発行号)

取材・文 渡辺亨