荒井英治(Morgaua Quartet)
Morgaua Quartet:(前列左から)荒井英治、戸澤哲夫(後列左から)小野富士、藤森亮一
現代音楽とロックがシンクロしていた時代を再体験してほしい
吉松隆のオーケストラ編曲版《タルカス》の録音の時にも、東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターとして全員をリードしていた荒井英治。実は吉松と同じく筋金入りのプログレッシヴロック・ファンである。彼の参加するモルゴーア・クァルテットは今年結成20周年を迎えたが、その記念としてリリースされる『21世紀の精神正常者たち』はまさに60年代末~70年代初頭に世界的なブームとなったイギリスのプログレッシヴ・ロックの名作を集めたもの。なぜ、こうした音楽に荒井は関心を持っていたのか?
「基本的にクラシックのレパートリーが嫌いだったんです(笑)。現代音楽とロック。それが僕の青春時代で、クラシック楽曲はいやいや弾いていた程度。しかし、当時の先生・江藤俊哉さんは、意外にも現代音楽に寛大だったのです。おそらくRCAの録音で共演経験のあるピアニスト、ウィリアム・マセロスの影響かもしれません。マセロスはなにせ現代音楽演奏のチャンピオンの異名を持つ人で、アイヴスのソナタ第1番などを初演した人でしたから。その江藤先生が『これを聴きなさい』 とチケットをくれたNHK交響楽団の演奏会で、松村禎三さんの作品に出会った事が、僕の衝撃的な現代音楽体験でした」
以後、兄の影響でビートルズのアルバムなどをむさぼるように聴き始め、さらにその後のブリティッシュ・ロックの一大潮流となったプログレッシヴ・ロックの世界に入り込んで行く事になった。
「初期のジェネシス(ピーター・ガブリエル在籍時代)、ピンク・フロイド、そしてキング・クリムゾン。そうしたロックと同時代の現代音楽が関心の中心でした。ショスタコーヴィチも、弦楽四重奏曲で言うと第12番が1968年初演だし、交響曲でも第14番は1969年初演です。新世界レコード(注・東京の神保町にあったロシア音楽専門店。惜しくも閉店)に通っては、出たばかりのショスタコーヴィチのLPを買うのが楽しみで」
なので、そのショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲を主に演奏するモルゴーア・クァルテットを立ち上げた。以後20年。
「60年代末、現代音楽とロックがお互いに意識していたのかどうか分からないけれど、きっとシンクロニシティがあったのだと思います。新しいアルバムには、その尖鋭な時代のエネルギーを感じてくれたら嬉しい」
若者たちよ、聴くべし。