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インタビュー

渡辺玲子



「ブラームスの協奏曲は室内楽、非常に共感を覚えます」



Reiko_Watanabe

ヴァイオリンの渡辺玲子が再び、演奏活動に意欲を燃やしている。6月6日に無伴奏作品だけを収めた新譜『SOLO』(フォンテック)を発表したのに続き、 7月1日には東京文化会館で長谷川陽子(チェロ)、山下一史指揮東京都交響楽団とともにブラームスの《ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲》を演奏。 19日はサントリーホールで、CD発売記念のソロ・リサイタルを開く。

「2004年に秋田県の国際教養大学特任教授として音楽の一般教養を教え始めたころは正直、新鮮な気持ちを失いかけていました。『音楽なしでは生きていけ ない』と言いながら、実はBGMとして聴き流しているだけの学生たちに英語で、楽曲の構造や和声の深いところを理解させようと努めるうち、自分の演奏意欲 も戻るどころか、前以上に激しくなってきました」

「ブラームスの『二重協奏曲』を弾くのは2回目、前回は20世紀!でした。楽譜には弓遣いも記してあるが、素晴らしい曲なので一から解釈し直すつもりで す。自分だけ頑張ってもどうにもならないし、そもそもヴァイオリンだけの協奏曲からして、ブラームスの独奏と管弦楽の作品には室内楽の要素が大きい。若い 時のように、オーケストラと張り合うのではなく、ソロが出たり入ったりしながら、全体を一つの声として奏でるところに、今は非常な共感を覚えています」

「私が初期教育を受けた時代は、ロマン派の作品が日本人には入りやすいと考えられていました。特にピアノの場合は作品数も多いから、それ以前の時代を飛ば し、ロマン派の学習に集中する傾向が強かったのです。でも、ブラームスの協奏曲にバロックの合奏協奏曲の様式が見え隠れするように、ロマン派の根底にも、 それ以前の時代の音楽が流れているのは動かしがたい事実。これも大学での和声や構造の授業を通じ、はっきり見えるようになりました」

「今回のCDは渋いイザイ、ヒンデミットの次にJ・S・バッハを置き、さらに佐藤真、エルンストの超絶技巧曲へと進む選曲。私だけの世界にこだわった半 面、ごく自然に聴いて頂けるよう工夫もしました。ヴァイオリン演奏の場合、変につくりこんでしまうとマニエリスム(技巧的・誇張的な芸術表現)に陥ってし まうので、自然さはすごく、大切だと思います」

「今の日本人演奏家は外国からだけ多くを吸収する時代の壁を超え、自分なりのスタンダードを究められる立場にあります。これからも色々、幅を広げて行きたいです」

photo by : Yuji Hori


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7/7(土)15:00~渋谷店6F 18:00〜新宿店10F


『東京文化会館《響の森》vol.31 ブラームス&ベートーヴェン』
7/1(日)14:00開演
渡辺玲子(vn)長谷川陽子(vc)山下一史(指揮)
東京都交響楽団  ブラームス:悲劇的序曲 op.81/ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 op.102/ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 op.92
会場:東京文化会館 大ホール
http://www.t-bunka.jp/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年07月03日 10:42

ソース: intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)

取材・文 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)