つづくバンド 『始まりの群像』
奇を衒っていないバンド、自然に出てくる音と言葉に忠実なバンド——そんなナチュラルな魅力に溢れた楽曲にグッとくるバンド!
何の変哲もない、ただただロック・バンドであるだけのロック・バンド——資料に記されたそんなキャッチコピーに頷かされる、シンプルなロック・サウンドだ。ヴォーカル/ギター・都筑祥吾の名前を冠したつづくバンドは、高校を中退して上京したその都筑を中心に結成され、彼が20歳を迎えた今年、ファースト・ミニ・アルバム『始まりの群像』を引っ提げてシーンに登場した。
「始めはニルヴァーナですかね……。でも英語がわからないから日本語のバンドも聴くようになって……周りがみんな聴いてたんで、という感じです。いまでもいちばん好きなのはレッチリで、オアシスやミューズとかも聴きましたけど、こういうのがやりたいと思って聴いてたわけでもないので、特に影響は受けてるってわけでもないです……」(都筑:以下同)。
これが人生2度目のインタヴューだという彼は、顔を寄せないと聞き取れないほどの小声でぽつりぽつりと言葉を置くように喋る。が、このシャイな男のどこからこんなワイルドな歌声が?と思うほど、伸びやかな歌唱力はいわく言い難い魅力を孕んでいる。
「普段はそんなに感情を出すほうではないので。唯一昂ぶるのはステージぐらいですね」。
『始まりの群像』に収められているのは全5曲。すべてドラム、ベース、ギター2本という編成で、演奏はライヴそのままと言っていいほど生々しい。初期オアシスなど90年代UKロックを思わせるガレージライクなミディアム“革命を”から、ふてぶてしいほどに肝の据わったサウンドを聴くことができる。
「僕が曲を全部作っていくことが多いです。あとはワンコーラスとかイントロだけを持って行って、スタジオでみんなで口出しながら作っていくこともあります」。
なかでも少し曲調の異なる“桜”は、骨太なバンド・サウンドでありながらどこかフォーキーな、日本産らしいメロディーを持ち、普遍的な親しみやすさがある。また“世界が終わりを告げる夜に”“メロス”といったアップテンポの楽曲は、キャッチーなギター・ポップにメロコアの重さと疾走感を加えた爽快さが魅力だ。
「“桜”はイントロから出来た曲なんですが、鼻歌で歌いながら作ってたら儚い感じになってきて、桜のイメージが出てきたので導かれるままに書いてたら、桜の花びらの歌になりました。詞は100%後です。〈こういう意味を込めて〉とかじゃなくて、曲を聴いて浮かんだイメージを伝えてるだけです」。
歌詞について何を訊いても、「自分と照らし合わせて書いたりはしてない」と答える。それは嘘ではないと思うが、正確に言えば〈歌詞が出てくる経路を自分では把握できない〉ということではないか。そう推測する理由は、例えば“世界が終わりを告げる夜に”のなかの素晴らしいフレーズ〈夢のような話でも歌はおれの自由だろ/この中では誰一人悲しませないよ〉が、ただ直感のイメージだとは思えないからだ。無意識だとしても、ここには都筑のアーティストとしての確信がはっきりと述べられているのではないか。
「そんな大袈裟なことじゃなく……周りの人がどう思おうと最終的には自分がいいと思って出すものが歌詞になるわけで、何を歌ったって構わないでしょうということですね。この5曲は本当に、自分のなかのイメージを詞にしたものだと思います」。
革命、銃声、堕天使、復讐、不安、絶望と希望といった言葉をあちこちに散りばめた歌詞は、ある意味生硬で重い。彼自身でも〈そんな元気な曲ではないと思う(笑)〉と言うが、音楽全体から迸るエネルギーが内向的なものではないことは、音を聴けばわかるはずだ。
「重い曲とか暗い歌詞でも、それでもいい曲だと言ってくれる人がいるので。自分の作ったものを聴いて喜んでくれる人がいるなら、すごく嬉しいです」。
歌っている本人にも解き明かせない謎がありつつ、力強さと危うさの両面を持ったまま、つづくバンドはともかく船出を果たした。この旅がどのように〈つづく〉のか、その行方をしっかりと見守りたい。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2012年09月27日 14:30
更新: 2012年09月27日 14:30
ソース: bounce 347号(2012年8月25日発行)
インタヴュー・文/宮本英夫