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インタビュー

須田宏美

マリア・ヒタに魅せられて、ブラジル音楽の道へ

欧米と比べる必要はないのだけど、日本のポップス文化は独特のスタイルを持っている。島国という地理的特徴があり、さらに英語が公用語でないことから、欧米の流行とは違った、そして確固としたスタンダードが国内で成立している。だからうまい具合に国内市場に食い込めばそれで成功…音楽ファンならいわれなくても分かっていることだろうが、この状況はもう一つの特徴を生み出す。国内で外国語の歌を手がける場合、その目的は国内市場での差別化にある。つまり付加価値というわけだ。これだけ島国から飛び出す手段が手軽になっても、日本を飛び出して欧米で活躍することが主流にならないのは、そういった意識が根底に流れているからではないだろうか。

バークリー音楽院で学び、現在NYを拠点に活動するシンガー、須田宏美の新作には、日本語、とポルトガル語の歌が収められている。留学前からブラジル音楽に触れてはいたが、のめり込むようになったのは渡米してからだという。

「一時、耳の不調で悩んでいた時期がありました。その頃偶然出かけていったマリア・ヒタのコンサートに魅せられて、それから取り組むようになりました」

今更だけどマリア・ヒタはエリス・レジーナの愛娘。新作で採り上げているレパートリーもエリスの影響か。

「あまりその意識はないけれど、ブラジル人のシンガーにとってエリスのレパートリーは簡単に歌えないという意識があるみたいです。でも私にはそれがないので。アルバムも最初はオリジナルだけで作ろうと思ったのですが、コンサートで歌う曲を収めたアルバムはないの? と聞かれることも多かったので、このような形になりました」

つまり、まさに彼女の現在形といえるアルバムだが、それはいったいどこに向いているのか? 先に書いたとおり「外国語で歌える日本人」は一つの付加価値だがそれは日本国内での活動を前提にした場合だ。だから彼女に聞いてみた。拠点はどこに置くのか? と。

「それはこれからもNYですね。ここは音楽的にすごく魅力的だから。それに私がポルトガル語で歌うのは表現の一部。ちゃんと歌うならネイティブのシンガーが歌うのが一番いい。でも私は日本人なりにブラジルの音楽を歌いたいんです」

実に頼もしい答えだ。これまでも海外に軸足を置くアーティストは多数いたが、彼女のようなスタイルはちょっと珍しい。グローバルを実践する須田の“これから”はちょっと目が離せない。

LIVE INFORMATION
『CD発売記念ライヴツアー』

8/30(木)Jz brat
8/31(金)Kamome
9/1(土)桜座
9/2(日)Jazz inn Lovely
9/4(火)Mister Kelly's 

http://www.hiromisuda.com

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年08月29日 16:08

ソース: intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)

取材・文 渡部晋也