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インタビュー

フレディ・ケンプ

「ひょんなことで、弾き振りから指揮に手を染めました」

20代から母の国、日本を頻繁に訪れ「世界中、追いかけて下さる特別なファンもいます」と語るフレディ・ケンプ。今年35歳の英国人ピアニストは遠縁に当たるドイツ往年の巨匠ヴィルヘルム・ケンプと比べられるのも恐れず、ベートーヴェンに深く共感する。現在は指揮も行うようになったが、そのきっかけは唐突なものだったという。

「昨年から今年にかけロイヤル・フィルと共演、ベートーヴェンの5つの協奏曲を弾く機会がありました。話が決まった時点では、特定の指揮者が存在していたのですが、いつしか名前が消えていました。そこで私がピアノと指揮の両方を担当することになったのです。大きなプロジェクトなので覚悟を決め、何人かの指揮者の指導を受けながら、スコアの読み方やベートーヴェンの管弦楽の書法などを改めて学びました」

「日本へ来る数週間前に先ず、第4番と第5番『皇帝』を演奏、協奏曲の前には『エグモント』序曲を初めて指揮しました。昨秋には第1〜3番を手がけました。ピアニストは自宅でも練習できますが、オーケストラを家に持ち帰ることはできません。十分スコアを読みリハーサルに臨む必要があるし、楽団の持ち味や水準によっても結果が違ってきます。独奏に専念する場合と違い、アーティキュレーション(分節法=文章の句読点に相当)をかなり明確にしないとオーケストラがかみ合わないですし、第4番の終楽章など、ピアノだけが突っ走っても周りはついてきません。大変に貴重なチームワークの経験を、良いオーケストラで始められたのは幸運でした。今シーズンは同じプログラムをニュージーランド、サンクトペテルブルクにも持って回ります」

「ベートーヴェンはシューマンと並び、最も自然に共感できる作曲家です。強弱ひとつ挙げても、モーツァルトの時代より反応のいい鍵盤楽器を前に、ベートーヴェンが何を目指して書き、他者が演奏する際には何を期待していたのか考えながら、解釈を深めるのは楽しい作業です。以前はチェロ奏者も交え、ピアノ三重奏曲もいくつか手がけましたが、現在の妻がドイツ人ヴァイオリニスト(カーティア・レンマーマン)なので最近は『クロイツェル・ソナタ』はじめ、ヴァイオリンとの室内楽にも手を広げています」

「ヴィルトゥオーゾ作品では間もなく、ガーシュインのピアノと管弦楽のための作品4曲をアンドルー・リットン指揮ベルゲン・フィルと録音した新譜(BIS)が出るので、楽しみにしていて下さい」

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年09月18日 12:24

ソース: intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)

取材・文 池田卓夫(ジャーナリスト)