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インタビュー

LONG REVIEW——クリープハイプ “おやすみ泣き声、さよなら歌姫”



〈ポップ〉と〈エキセントリック〉の狭間で捉えた恋の終焉



クリープハイプ_J170

クリープハイプは、というより尾崎世界観の心の内にはメジャー・デビューを機に何かしらの変化が生じたようで、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』のインタヴュー時にも「聴いてくれる人が増えてくると、欲も出てくるし、もっと先までいきたいという気持ちに」なると意欲を語っていたし、ハッキリ〈売れたい〉と口に出していた。ただし〈自分たちのやりたいように、わがままに、カッコよく売れたい〉と付け加えることは忘れなかったが。

かくして叙情的な私小説と無頼派の作風を併せ持つ巧みな表現力はそのままに、音楽的にはよりポップな方向へとクリープハイプは舵を切った。その成果のひとつが例えば軽やかな4つ打ちを採り込んだ“オレンジ”であり、そしてこの“おやすみ泣き声、さよなら歌姫”なのだろうと思う。実際、エモーショナルなハイトーン・ヴォイスが売りの尾崎の歌と同じくらいに、ギターのメロディアスなフレーズと疾走感溢れるビートがキャッチーに耳に残り、楽曲としての完成度はこれまでと違うレヴェルにある。ふたりの恋が終わる決定的瞬間を美しく抽象化したと思える歌詞も、とてもシンプルで伝わりやすく、そしてとても切ない。

そして、穏やかな明るさと仄かな哀しみが交錯するミドルテンポの“転校生”に至るとその印象はさらに強まり、アコギの素直な響きと繊細な打ち込みのリズムが心地良い“明日はどっちだ”になると、〈がんばれアタシ、明日は良い日だ〉という恐ろしく前向きな言葉さえ、躊躇なく使われている。

このシングルの3曲に関して言えば、サウンド面でも歌詞の面でも、表現のエキセントリックさにおいてもポップさにおいても、より多くのリスナーに向けた作品として非常にうまくバランスが取れているし、バンドとしての意識も演奏も進歩はあきらかだ。メジャーの舞台という大きな河を渡りはじめたクリープハイプがこの先どうなっていくのか。心配よりも楽しみのほうがいまは遥かに大きい。


カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2012年10月03日 18:01

更新: 2012年10月03日 18:01

文/宮本英夫