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インタビュー

禁断の多数決 『はじめにアイがあった』



禁断の多数決_A



「何でもまず手探りでやってみるんだけど、思わぬミスから生まれる表現がおもしろかったりするんです」──そう語るのは、7人組の男女混合音楽集団、禁断の多数決の中心人物・ほうのきかずなり。彼らの初作『はじめにアイがあった』は、約1時間のなかに20もの楽曲を収めた、試行錯誤の結晶のような作品だ。そしてそれは、キラキラとポップに輝いている。

「アニマル・コレクティヴの型にハマらないところが好きなんです。国籍不明のトライバル感とか、あとちょっと気持ち悪くて得体の知れないところなんかも」。

メンバー7人のうち、ほうのきが図書館で声をかけたという女子高生を含む女性ヴォーカリストが4人。その編成のユニークさもさることながら、個々のヴィジュアルも見事にバラバラ。YouTubeで多数公開中のPVも、抽象的な映像だったかと思えばシュールなアニメだったり、B級SF風だったりと、とにかく次に何がくるのかわからない驚きとアイデアに満ちている。

「アニコレのエイヴィ・テアって、曲の途中で唐突に絶叫したりするじゃないですか。ああいう人の驚かせ方に影響を受けてますね。ポップなのに突然発狂しちゃう、みたいな感覚に惹かれるんです」。

そんな自由さと驚きを愛する彼らのアルバムには、呑み友達だという電子ポップ・アーティストのIdiot Popと共作したニュー・オーダー風味の萌え&キャッチーなシンセ・ポップ“透明感”を筆頭に、アニコレを想起させるサイケ・ポップ、トロピカルなビーチ・ポップ、USインディーなローファイ・ポップまで、実にヴァラエティー豊かな〈ポップ〉の形が詰まっている。若干分裂症気味!? でも、「手探りでもいいからやりたいことを本能の赴くままやる」というDIY感は一貫したものだ。なかでもフィル・スペクターになりきってお茶目なウォール・オブ・サウンドを聴かせる“Sweet Angel”がおもしろい。

「〈ウォール・オブ・サウンドってどうやって作るんだろう?〉ってみんなで研究したんですよ。ドラムをラジカセで録音したりとかいろいろ試行錯誤してみて、ティンパニを入れると意外とそれっぽくなるなあということを発見しました(笑)」。

そして、そんな奔放さのなかからジワリと滲み出る〈和〉のテイストも、彼らの大きな個性だと思う。それは実家のすぐ目の前が海だというほうのきの原風景からくるものなのかもしれない。ちなみに、アルバムにはチンドンとコラボした“KushiDango”なる、お祭りの賑やかさと郷愁感に満ちた曲があったりもするのだが……。

「地元の富山県で毎年〈全国チンドンコンクール〉が開催されているんです。そこで一目惚れした一座に〈レコーディングさせてください〉ってお願いして。その一座の方のお家で録らせてもらいました」。

そんなエピソードと共に、「他の国を真似してもしょうがない。日本人だからこそ、日本ならではの文化を大切にしたい」と語る彼からは、本作の音そのままに自由で気ままで、どこかのんびりとした(でも芯はしっかりとある)〈古き良き日本人〉という印象を受けたのだけど、そんな彼が〈禁断の多数決〉という奇妙なバンド名を付けた理由も、これまたわりと自由なものだった。

「〈多数派の正義〉というものが本当に正しいのかな?って思っていた時期があって、ちょうどその時にメンバーの一人が〈バンド名は多数決で決めようぜ〉って言ったのを〈禁断の多数決〉って勝手に聞き間違えて〈あ、それバンド名にしよう!〉って。そうしたらそのまま決まっちゃって(笑)」。

勘違いから始まるバンド名だってある。音楽だって、恋だってそうだ。でも、いくら間違えたっていい。初めに〈愛=アイ(自分)〉さえあれば。このアルバムの出発地点にはちゃんとそれがある。だからこそ、こんなにもキラキラと眩しく輝いて聴こえるのだろう。



PROFILE/禁断の多数決


処女ブラジル(ヴォーカル)、てんぷらちゃん(ヴォーカル)、尾苗愛(ヴォーカル/ギター)、シノザキサトシ(サンプリング/シンセサイザー)、はましたまさし(ギター/ベース/シンセサイザー)、ほうのきかずなり(ヴォーカル/サンプリング/ドラムス)、ローラーガール(ヴォーカル/ギター/シンセサイザー)から成る7人組。素性を明かさず2011年より動画サイトなどで自作のPVやグラフィックを公開しはじめ、ネットを中心に口コミで話題となる。2012年は4月に配信シングル『透明感/LET'S GO』を、5月には初のCD作品『禁断の予告編』を限定店舗で発表。さらに注目度が高まるなか、10月10日にファースト・アルバム『はじめにアイがあった』(AWDR/LR2)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年10月10日 18:00

更新: 2012年10月10日 18:00

ソース: bounce 348号(2012年9月25日発行)

インタヴュー・文/佐藤一道