山田ゆき
同性も惚れずにいられない堂々とした歌声の持ち主
実に堂々としたカッコいいお声の持ち主だ。ジャズ・シンガー、山田ゆきのデビュー作『LOVE』では、ドスの効いた歌声を轟かせながら鋭角にそびえ立つ彼女の姿が随所で見られる。パワフルでダイナミックな演奏を背にした際の歯切れの良さ、凛々しい立ち振る舞いなんて惚れ惚れしてしまう。
「レコーディングは今回が初めてだったんですが、自分がこういう歌い方をするんだ、ってことを改めて確認できたことが嬉しかった。シャウトやフェイクを駆使するライヴとは違うんだってことを意識して丁寧にやったつもりなんですけど、メロディを自分流に料理しながら歌えたかな、と自画自賛しています(笑)」
実際は小柄な彼女は、ジャズを歌い始めて10年のキャリアを持ち、また歌手のほかに歯科医という顔も持っている。本作の制作にあたって、プロデューサーを務めた椎名豊と事前に何回も打ち合わせを重ねて方向性を決めていったようだが、それは彼女のなかの引き出しを開けていく作業となった模様。選ばれたのは、これまで彼女がステージでずっと歌ってきたスタンダード曲だが、魅惑的なモノクロームの色調をたたえたペギー・リーの《Fever》などを聴くと、けっこうブルースがお似合いなんだってことがよくわかったりもする。
「実際に、湿っぽくて哀愁のあるメロディに惹かれるんです。ただ、ライヴで、暗い曲を歌いながら、人生いろいろじゃないけど、最後はハッピーで行こうぜ!みたいなことをアピールできたらいいなと思っていて」
最近のポップスはぜんぜん似合わなくて、歌うのは昭和歌謡のほうがしっくりくると自己分析する彼女だが、 きっと女性にとって、カッコいい!と憧れてしまう類いの歌声なんだろうと想像してしまう。ただただカッコいいばかりではなく、まったくの自然体を感じさせ る〈屈託のなさ〉もまた山田ゆきの魅力のひとつ。特にラストに置かれた《LOVE》の伸び伸びとした歌唱は、シンガーとしてのスケール感を明確に認識させてくれる。母の影響で物心ついた頃から古いジャズ・ナンバーに触れてきた彼女にとって、ここに並ぶスタンダード曲はどんな魅力があるのか最後に訊いた。 「もう身体に染み込んでいるんですよね。80年も前の曲なんて信じられない。すごくオシャレだし、全く色褪せないですよね。歌えば歌うほど奥深さを発見させてくれるのが魅力。なのでこれからもじっくり向かい合っていこうと思います」