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インタビュー

INTERVIEW(2)――すべてが大衆音楽



すべてが大衆音楽



渋さ知らズ



――今回の選曲ですが、ただただ素晴らしいの一言です。

「“RYDEEN”や“君は答えよ”以外は、ライヴでもやっていない初めての曲ばかりで。西田佐知子さんの“恋は夢いろ”を知っている人なんて日本にもほとんどいないでしょう。20年ぐらい前から好きでね。“夜霧のむこうに”というシングルのB面曲なんですよ。京都に〈ろくでなし〉ってジャズ喫茶があって、そこのマスターにシングルをもらったんです。で、(今回この曲を歌った)渚ようこさんとはライヴで対バンしたり参加してもらったりしてたんですが、あの方の声がこの曲にとても合うなぁと思っていて。先ほども言いましたが、オルケスタ・リヴレは趣味のいいママさんが集うようなショップに似合うけど、僕らのアルバムは新宿ゴールデン街とかそういった匂いのする場所に置いてもらうのがお似合いですよね(笑)」

――そうしたら大ヒット間違いないですね(笑)。

「最初ね、昔の演歌のアルバムみたいに美人画を使ったジャケットにしたかったんですよ。キレイなお嬢さんが和服を着て、シナを作っているような感じ。例えば、〈藤あや子さんを使ったジャケットなんてどうかな?〉って制作担当に言ったんですけど、〈チッ〉って言われて終わってしまいました(笑)。演歌ファンが間違って手を伸ばしてしまったらいいなぁとか考えていたのに」

――(笑)。選曲の話に戻りますけど、ミルトン・ナシメントの曲を〈歌謡曲〉として採り上げているのが興味深いです。

「日本語で言ってしまうと歌謡曲ですが、ポピュラー・ミュージックですよね。大衆音楽としてね」

――それはYMOの“RYDEEN”も同様に。

「僕らが“RYDEEN”を初めて演奏したのは14、5年前なんですが、その後、中野を歩いていたときに偶然、警察の音楽隊があの曲を〈タッタッタ~♪〉ってやっているのを見掛けて、〈僕らと同じアプローチでやってる!〉って思ったことがありまして」

――“Ponta De Areia”も“RYDEEN”もオリエンタルなメロディーを持ってますよね。

「“Ponta De Areia”なんて烏龍茶のCMで使われている曲みたいでしょう。ぜひ使ってもらいたい(笑)。でも、ミルトン・ナシメントの歌なんて、聴くと実に土着的な感じがするし、芯の部分はそう遠くないなと思っているんですけど」

――この2曲の存在がアルバムの多様性を生んでいることは間違いない。

「いやいや、あっちこっち彷徨っているような感じなんですよ(笑)」

――そして最後は『薔薇門』の“君は答えよ”へと辿り着く流れが実に痛快で。

「まぁ、この曲はいまの時代に合ってるかしら、と思いまして。〈3.11〉の後のマスコミやメディアとか、政府や権力のあり方とか、いったいどうなのかと考えるとあの歌詞が非常にね……。最初は(遠藤)ミチロウさんに頭脳警察の“銃をとれ”や“さようなら世界夫人よ”などを歌ってもらうのもいいかなと思っていたんですが、ミチロウさんは三上寛ちゃんの“夢は夜ひらく”がいいってことで。ちなみに“黒い花びら”を寛ちゃんに歌ってもらうのは僕のリクエストだった。水原弘や小林旭って彼にとっての青春だったと思うから、きっと一発でイケるんじゃないかしら?と思って。実際、カッコ良かったなぁ。日活映画のスターみたいで。寛ちゃんは寛ちゃんなんだけど、あの歌を歌っているときに彼の頭のなかで描かれていたであろう〈無意識過剰〉がブワーッと出ていて、サスガだなと」

――“黒い花びら”に“黄昏のビギン”と水原弘の曲が2曲取り上げられていますが。

「作詞・永六輔、作曲・中村八大のチームでいうと、北島三郎の“帰ろかな”も合わせて3曲になるんですよね。やっぱり彼らの曲はすごいなあと思って」

――あっそうか。しかし今回は郷愁を掻き立てる演奏が多くって、そこがすごくいいなあと思いまして。特にSandiiさんが歌う“黄昏のビギン”なんてもう……。

「あれね~、僕も感動しちゃってね。実は僕だけのテイクを持ってるんですよ。間奏のアドリブで、彼女が鼻歌で〈フフフン♪〉って歌っているのを、エンジニアに〈消さないでください!〉って頼んでね。そのテイクをもらって、自宅のパソコンに入れてあるという(笑)。ウチの鬼頭哲がアレンジをやっているんですが、素晴らしい仕上がりになりましたね」

――“Swallowtail Butterfly ~あいのうた~”なんて、僕には鎮魂歌のように響いてグッときちゃいました。

「なるほど、レクイエムか……。新しい魅力を引き出してもらったな。とっても好きな曲なんですよ」

――歌謡曲というと、どうしてもノスタルジーとセットになっちゃう傾向があると思うんですが、若いリスナーには、果たしてこの音楽がどう受け止められるのかと思って。

「かつてフェダインというバンドをやっていたとき、金髪のボーヤの子がいて、彼に北島三郎を聴かせたら、〈声のビブラートが独特〉って言ったんですよ。僕らも40年代のシカゴ・ブルースとかマヘリア・ジャクソンとか聴いたとき、〈ちょっとヘンだな〉って違和感を持ちましたよね。もともと演歌って、浪曲や民謡とジャズやいろんなポピュラー・ミュージックが合体して出来たと思うんですよ。かつて三波春夫さんのような浪曲師たちが歌謡曲の世界にやってきた頃って、僕らがマヘリア・ジャクソンを初めて耳にしたときのようにみんな違和感を抱いたんじゃないかと。ま、若い人に新しく聴こえるのか、古臭く聴こえるのか、耳が違いすぎるからわからないな。僕にはフツーに聴こえるけど、〈何じゃコレ!?〉ってふうに快感になるのかもしれないし」


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掲載: 2012年11月14日 18:01

更新: 2012年11月14日 18:01

インタヴュー・文/桑原シロー