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インタビュー

OverTheDogs 『プレゼント』



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昨年10月、亀田誠治や佐久間正英、いしわたり淳治などをプロデューサーに迎えたフル・アルバム『トケメグル』でメジャー・デビュー。ヴォーカリスト・恒吉豊が手掛けた文学性の高い歌詞とファンタスティックな世界観を感じさせるメロディー、そして楽曲の持つストーリー性を際立たせるアンサンブルを全面に出した同作で大きな注目を集めたOverTheDogsが、セカンド・アルバム『プレゼント』を完成させた。恒吉の死生観が色濃く反映され、ネガティヴな方向に振れがちだった前作と比べ、全体的に明るさを増して肯定的なムードに覆われているのが特徴だろう。

「やってることは変わらないんですよ。僕が曲を作って、そのイメージをメンバーに伝えて表現するっていう。ただ、僕自身が良い意味で開き直ってきたんですよね。以前は〈いつか死ぬんだ〉っていうネガティヴな捉え方だったんですけど、いまは〈どうせ死んじゃうんだから、やれることをやろう〉っていう考え方になってきたんです。例えば“マインストール”という曲の〈将来は君の想い通りだよ/最高の想像を信じればいい〉という歌詞にしても、昔だったら〈嘘つけ!〉って感じだったし、絶対に書かなかったと思うんです。でもこうやって音楽を続けられているわけだし、僕自身、理想の状況に近付いているなっていう感じもあって。その感覚を正直に書いたんですよね。希望ばっかり歌うのも嘘臭いし、暗い曲ばかりに寄っていくのも違う。感じてることをそのまま書くしかないですからね。あと、視力矯正の手術を受けたことも関係してるかもしれないです。手術後に夕方の空を見たとき〈すげえ! こんなにキレイだったんだ!〉って思って。物理的なことだけど、自分にとっては大きいことだったと思います」(恒吉:以下同)。

メジャー・デビュー後の意識の変化は、サウンドやヴォーカル表現の広がりにも繋がっていると語る。彼が酒を呑みながらギターを掻き鳴らしたというガレージ・パンク風の“凡考性命紊(はんこうせいめいぶん)”、「江口さん(いきものがかりの楽曲を数多く手掛けるサウンド・プロデューサーの江口亮)にアレンジを任せたら、笑っちゃうくらい攻めてきた」というエッジの立ちまくったポップ・チューン“愛”、ハイトーン・ヴォイスで注目される恒吉が「低い声でも歌えるんだぞ、というところをアピールしてやろうと思った(笑)」という穏やかなヴォーカルの印象的な“カレーでおはよう”——これらがバンドの音楽世界を広げていることは間違いないだろう。

「〈これが俺らの音だ〉みたいなこだわりって、〈うちの店では水は飲ませない〉って言ってるラーメン屋みたいなもんだと思うんですよ(笑)。客の立場からすれば〈あなたの気持ちはわかるけど、俺は水が飲みたいんだよ〉ってことじゃないですか。音楽もそれと似てるというか、聴く人が楽しんでくれるほうがいいと思うんです。もちろん、基本的には自分の感覚なんですけどね。気持ちいいとかカッコイイと感じることを素直に表現していくべきだなって」。

「人は日々変わっていく。辻褄が合わなくても当然だと思う」という恒吉。その瞬間の感情と快楽に従いながら、予想を超える変貌を遂げた『プレゼント』によってOverTheDogsはさらに刺激的なフェイズへ突入していくことになりそうだ。

「その瞬間の衝動を大事にするっていうのはずっと変わらないと思います。目標は……できるだけ長くバンドを続けることかな。絶頂期で解散して伝説になるよりも、70歳くらいになってオムツしてでもステージに出てくるほうがカッコイイと思ってるので。20〜30年経ったらいろんなものが蓄積されて、もっといろんな歌が書けるようになってるだろうし。そんな自分になるためにも、ずっと音楽を続けていたいですね」。



PROFILE/OverTheDogs


恒吉豊(ヴォーカル/ギター)、樋口三四郎(ギター)、佐藤ダイキ(ベース)、星英二郎(キーボード)から成る4人組。2002年に東京で結成。2010年にファースト・アルバム『A STARLIGHT IN MY LIFE』をインディーでリリース。2011年に『トゲメグル』でメジャー・デビュー。〈サマソニ〉〈ROCKS TOKYO〉〈COUNTDOWN JAPAN〉といった大型フェスやイヴェントに多く出演して認知を広める。今年2月からThe SALOVERS、クリープハイプ、アルカラと〈スペシャ列伝ツアー2012〉で全国を回る。3月にはミニ・アルバム『トイウ、モノガ、アルナラ』を発表。シングル“プレゼントの降る街”を先行カットし、11月7日にニュー・アルバム『プレゼント』(FOGHORN)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年11月19日 17:10

更新: 2012年11月19日 17:10

ソース: bounce 349号(2012年10月25日発行)

インタヴュー・文/森 朋之