ハルカトミユキ 『虚言者が夜明けを告げる。僕達が、いつまでも黙っていると思うな。』
〈狂えない 狂えない/狂ってしまえない〉ーー透き通った声で、堰を切ったように放たれる鮮烈な叫びが耳に残る。密やかなアコギの旋律が深みのある轟音へと劇的に転じるオルタナ・チューン“Vanilla”を筆頭に、ハルカトミユキの初EP『虚言者が夜明けを告げる。僕達が、いつまでも黙っていると思うな。』には、冷めた眼差しとその奥で燻るエモーションがない交ぜになって封じられている。そのすべての詞を手掛けるのはハルカ。彼女が〈詩〉を書きはじめたのは中学生の頃だという。
「曲を聴いても詞が先に入ってくるから、〈詩〉が好きなんだなと思って。そこから自分でも書いてみたり……でもその頃は楽器も弾けないから、ただ〈詩〉だけ書いてて。それを表現するための歌、みたいな感じで後から音がきましたね。わかってほしいけど、わかってくれなくてもいいや……っていう諦めと見せかけて、ホントはすごくわかってほしい、みたいな(笑)。〈吐き出すための詩〉みたいなところはずっと変わってないですね」(ハルカ)。
コード、フレーズ、メロディーと言葉のキャッチボールによって2人で作り上げるというサウンドも、キャッチーでありながら仄かな違和感を残す、素通りできない魅力を孕んでいる。「ダークで、うるさくて、綺麗な音楽が好き。あと変な響きのコード感も」と語るハルカと、「歪んでて、綺麗で。ダサ格好良いフレーズや民族っぽい音階にも惹かれる」というミユキ。フェイヴァリットとして挙がったのはレディオヘッド、シガー・ロス、ニルヴァーナ、久石譲、SPECIAL OTHERS、サカナクション、ニュー・オーダー、envyなどで……さらに2人はこう続ける。
「3歳から高校までピアノをやってたんですけど、大学ではカート・コバーンみたいにギターを弾きたいなと思って。だけど、やってみたら声も違うし、やっぱりカートにはなれないや、って(笑)。それでハルカトミユキではキーボードをやってるんですけど、ホントはギターがよかったっていうのがあるから、エフェクターをいっぱい使って歪ませて……」(ミユキ)。
「アコギとキーボードだけでエレキ・ギターみたいな変な音が出てるとか、アコースティックなのにうるさいとか」(ハルカ)。
「あと、ハルカのコードはすごく変で。“MONDAY”は、ギターを弾いてくれる人が〈理論的にあり得ない〉って」(ミユキ)。
「私、〈この響きがいい〉っていうだけで曲を作っちゃうんです。意識的に普通のコードを弾いてもどこかで(音を)外したり、足りなかったりするほうが絶対的に好みだから、そこはたぶん、独特なヴォイシングになってると思いますね」(ハルカ)。
プロデューサーに熊谷昭、ドラムスに中畑大樹(VOLA & THE ORIENTAL MACHINE)や吉村由加(DMBQ)など外部からの助力も得て制作された全5曲。理論から解き放たれたいという作詞の際の苦悩と、現代社会に対する客観的な視点の両面から〈狂えれば楽なのに、狂えない感覚〉にアプローチしたという“Vanilla”、低体温のスポークンワーズと奇妙なワンフレーズで爆発寸前の閉塞感を描いた“プラスチック・メトロ”、スミス風のギター・サウンドで〈散々な月曜〉を歌う“MONDAY”、ファンタスティックなシンセを纏った4畳半フォーク“アパート”を経て、ラストを飾るのは“絶望ごっこ”。主人公の怒りと呼応するディストーション・ノイズが狂おしいほどのカタルシスをもたらす逸曲だ。
「これは〈3.11〉の直後に書いたんですけど、その時の東京の人たちの、普段と違うことが起きて浮足立ってる感じがすごく嫌だったんですよ。でも、なぜそんなにムカつくのかっていうと、自分にもそういう部分があるからで。世の中の状況が鏡みたいに自分を映してた、そこで自分を見たっていう感覚は強くありますね」(ハルカ)。
彼女たちが本作で投じた一石は、静かに、けれども確実に波紋を広げていくことだろう。〈虚言者〉とは、そして〈僕達〉とはーーその曖昧な境界線にこそ、聴き手自身の姿が映し出されている。
PROFILE/ハルカトミユキ
2008年に大学の音楽サークルで出会って結成。23歳のハルカ(ヴォーカル/ギター)と22歳のミユキ(キーボード/コーラス)から成る女性デュオ。都内を中心にライヴ活動を行う傍ら、これまでに自主で3枚のデモCDを限定店舗で発表し、ハルカは本名の福島遥名義で詩集も自費出版している。ほぼ無名の状態ながら、2012年は300組を超えるラインナップが集結する日本最大級のショウケース・ライヴ・フェス〈MINAMI WHEEL 2012〉へ出演し、関西圏で初のステージを披露。じわじわと知名度を高めるなか、このたび初めての全国流通盤となるファーストEP『虚言者が夜明けを告げる。僕達が、いつまでも黙っていると思うな。』(H+M)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2012年12月18日 20:35
更新: 2012年12月18日 20:35
ソース: bounce 350号(2012年11月25日発行)
インタヴュー・文/土田真弓