インタビュー

川嶋哲郎

即興を極めるなかで出会った人と曲、そして“祈り”

「4人からが難しいんですよ」

日本を代表するサックス・インプロヴァイザーとして、ソロ、数々のデュオ・プロジェクト、ギターとベースによるトリオ“東京銘曲堂”、そして山下洋輔スペシャル・ビッグ・バンドへの参加など、枠にとらわれない多岐にわたる活動を展開する川嶋哲郎に、「カルテットのコンセプト」を聞こうとしたら、開口一番こんな答えが返ってきた。どんな状況にも己のサックスだけで立ち向かい、その感性のままにサウンドをクリエイトするイメージの彼が口にするには違和感のある言葉だ。

「コミュニケーションとしての音楽を考えた場合、2人がいちばん操作しやすい。3人になると傍観者がでるけど、2人の話し合いを聞いているから意思の疎通はできる。つまり、3人までなら即興演奏的には“やりやすい”ということ。でも、4人になると、どうやって喋らない部分をつくるかという要素が増える。それは即興演奏にとって足枷になるから、気をつけて音楽をやるようにしなければならなくなるんですよ」

5人以上は譜面への依存度が高まるため、“即興人”としての川嶋哲郎の範疇から離れてしまう。だから、彼にとって4人というのは、即興を犠牲にしないギリギリの“大編成”なのだ。

この想いを具現するカルテットは、前々作『哀歌』を生み、ピアノを田窪寛之に替えて本作へと発展した。「たとえばライヴが終わった後でも時間をかけて真剣に音楽の話ができる人と一緒に演奏するということが大事なのではないか」と語るような川嶋の姿勢を厭わない顔ぶれ——というメンバーの紹介の仕方が、このカルテットの結びつきと、発する音の“強さ”を説明するのにもっともふさわしいと言える。彼らは演奏だけで解決することを是とせず、意見をぶつけ合い、納得してから再び音と対峙する。即興でコミュニケーションを熟成させていくには、偶発性に頼るだけでは足りないことを、身体で知っている者たちだからこそ拓ける世界をめざして——。

収録曲は、ライヴで演奏を重ねたオリジナルと、川嶋が最近よく聴くというバッハやシューベルトなどの曲が並ぶが、だからといって「クラシックを演奏するとは思っていない。とにかく好きで、自分が“泣ける”と思った曲を選んだ。カテゴライズするのは難しいかな?」と笑う。そして、スピリチュアルな4人の関係性を象徴するからと選んだ言葉が、今回のタイトル“祈り”だった。

LIVE INFORMATION
『「祈り」発売記念ツアー』

11/7(水)茨城・古河up's
12/24(月)神奈川・茅ヶ崎HUSKY'S GALLERY
12/26(水) 群馬・桐生Village
http://tetsuroo.jugem.jp/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年11月07日 12:57

ソース: intoxicate vol.100(2012年10月10日発行号)

取材・文 富澤えいち