こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

Plastic Tree 『インク』

 

15年前の自身を肯定し、超えることで最高の〈いま〉を提示した新作。この『インク』 が聴き手の心奥に染み込み、像を結んだときに示されるものは──

 

 

15年前の初期衝動を超えて

〈午前0時 鏡のなかに出演してる知らない僕だ〉──アコギのみを伴った有村竜太朗(ヴォーカル/ギター)がそう独白する“ロールシャッハ(左)”。ジャケット写真のような左右対称のインクの染みがどう見えるのか──その回答による心理分析法を名に冠した同曲で、Plastic Treeのニュー・アルバム『インク』はひっそりと幕を開ける。

「自分が作品を残していくことだったり、それを人が見て聴いてどう思うかだったりを、短いなかに上手くまとめられたらなって。曲ではいろんな感情をさまざまに表現していくんだけど、そこに〈はじめに〉〈終わりに〉みたいな説明書きがあってもいいのかな、と」(有村)。

メジャー・デビュー15周年を迎えた今年は、日本武道館公演〈テント(3)〉の開催、3枚のシングルの発表、初作『Hide and Seek』の〈Rebuild〉ヴァージョンの制作と、絶えずアクティヴに動いてきた4人。冒頭のような小品から長尺のインストまで揃った本作には、その経験が漏れなく刻み込まれている。

「シングルを録って、〈Rebuild〉を少しずつやって、アルバムの制作も並行して進めてたから、レコーディングでメンバーと顔を合わせて話す機会もいつもより多くて。だから曲出しも入れる曲のバランスも細かく詰めることができたし、各作曲者のパーソナリティーも、近年向かおうとしてた音の方向性も、これまで以上にはっきり見えるなって」(有村)。

「曲調には各々のカラーが濃く出てるんですけど、妙に統一したムードがあるなと。たくさんある曲のなかで、みんな同じ意識を持ってふるいにかけてるっていうか。〈Rebuild〉作業で15年前の初期衝動と向き合いつつ、それを超えていまの自分たちをきっちり見せていかなきゃならない。〈過去の自分たちに負けちゃいかん!〉って(笑)、そういう意識だったんだと思います」(長谷川正、ベース)。

 

自分の何たるかを知る作業

そんな発言通り、本作には個々の持ち味を4人でブラッシュアップし、バンドの刻印を押した12曲が並んでいる。有村が「客観的に見て、いちばんプラがやりそうな曲」と評する表題曲や、シューゲイザーに和音階をコーディネートした“てふてふ”など、メランコリックなメロディーと陰影に富んだリヴァーブ使いで退廃的なギター・サウンドを構築する長谷川。そして、自身のなかで妖しく揺れるセンティメンタリズムを、音と言葉を通じて多様なフォルムへと変容させる有村。静と動の間で振れるバンド・サウンドと、拭い去れない哀しみを綴った言葉──そのシンクロニシティーが爆発的なエモーションを呼ぶ“ライフ・イズ・ビューティフル”は、なかでもハイライトと言えるだろう。

「これは思い出話みたいな曲で。俺、同じタイトルの映画が好きなんですけど……普段は〈薄っぺらいなあ〉って思うような幸福論も、自分が大事にしたい時間のなかで一瞬だけ本当になったりする。この曲の根底にあるのはそういうことだと思います」(有村)。

一方で、〈バンドの飛び道具係〉を自称するナカヤマアキラ(ギター)は、生ドラムのエディットと煌めく電子音がひた走る“ピアノブラック”や、衝撃映像のカットアップの如き詞世界が強烈な“あバンギャルど”で全体にヴィヴィッドなアクセントを施し、ドラマーの佐藤ケンケンはストリングスやグリッチ・ノイズでレトロな彩色を施した“君はカナリヤ”に瑞々しい詩情を乗せる。

「“あバンギャルど”は、あるお題に対して何も考えずにワーッと小説ぐらいの文字数を書いていったんですね。で、そのなかから言葉を引っこ抜いて。パッと見では意味が伝わらなくても、俺がわかればいいやって」(ナカヤマ)。

「できるだけストレートな言葉で書きたいと思って……その書きたいことと“歌を忘れたカナリヤ”っていう童謡が重なったので、モチーフにして書きました」(佐藤)。

そんな個性のひしめく12曲だが、クライマックスにおいて異彩を放つのは、先の武道館公演でのインプロヴィゼーションを元にした12分超のインスト・ナンバー“96小節、長き不在。”。ディレイのさざ波が徐々に渦巻き、やがて轟音へ達するこの曲からは、現在の彼らの高いプレイヤビリティーが窺える。

「約束ごとを極力少なく、でも発想をどれだけ膨らませることができるか。武道館では(長谷川との)2人でしたけど、今回は4人でやってみようと」(ナカヤマ)。

「ちょっとの隙間に手を突っ込んで、ギィ~ッと空間をこじ開けていくような感じ。先が見えなくて、おもしろかったですね」(長谷川)。

そのカオスの先にあるのは、オープニングと対になるエンディング曲“ロールシャッハ(右)”。ここで彼らは改めて問い掛ける。このインクの染みを──この『インク』という作品を、あなたはどう捉えますか?と。

「インクを紙に垂らして……って、自分でも計算不可能じゃないですか。だからこそ自分の何たるかを知ることができるし、人にそのテストを施せば、その人を知ることもできる。自分たちにとって、〈作品を作る〉ってそういうことなのかな、と」(長谷川)。

聴き手の心奥へ静かに浸透し、鮮やかな像を結ぶ本作。そこには、聴き手自身ともっとも近い存在が投影されている。

 

▼Plastic Treeの作品を紹介。

左から、2012年のシングル“静脈”、“くちづけ”、“シオン”(すべてFlyingStar)、97年作『Hide and Seek』(ワーナー)

 

▼Plastic Treeの参加作品。

左から、2011年の黒夢のトリビュート盤『FUCK THE BORDER LINE』(avex trax)、2011年のディズニー音楽のカヴァー集『V-ROCK Disney』(WALT DISNEY)、ナカヤマがリミックスを手掛けたLM.Cの2008年のシングル“JOHN”(ポニーキャニオン)

 

▼Plastic Treeの過去の武道館公演を収めたライヴDVD。

左から、2007年作「ゼロ」、2009年作「テント」(共にユニバーサル)、2010年作「Ch.P」(徳間ジャパン)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年01月24日 20:15

更新: 2013年01月24日 20:15

ソース: bounce 351号(2012年12月25日発行)

インタヴュー・文/土田真弓