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インタビュー

LONG REVIEW――中山うり 『ホロホロ』



ふと立ち寄りたくなる大衆食堂



中山うり_J170

中山うりの新作タイトルは『ホロホロ』。〈ホロホロ〉の意味を手元の辞書を調べると、〈花や涙が静かにこぼれ落ちるさま〉、あるいは〈山鳥が鳴く声〉なんていうのもある。使い方はいろいろだが、何となくの印象としては、柔らかで、繊細で、ちょっと切ない感じ、なのだろうか。確かにそんな音楽が、このアルバムには収められている。

今回が彼女にとって初めてのセルフ・プロデュース作になるが、だからといって気負うことなく、歌を自分のそばに引き寄せるようにナチュラルな空気が流れていて、冷やし中華じゃないけど、〈セルフ・プロデュースはじめました〉なんて垂れ幕がアルバムにぶら下がっているような、スロウな雰囲気。トレードマークのアコーディオンをはじめ、ウクレレ、フルート、カリンバ、トランペットなど生楽器をたっぷりと織り込んだアンサンブルは人肌を感じさせて、疲れ果てて家路を辿る道すがら、ふと立ち寄りたくなる大衆食堂みたいな音楽だ。

そしてメニューを開けば、フォーク、カントリー、ブラジル音楽、ニューオーリンズ・ファンクなどなど相変わらずの多彩さだが、どれもが自家製の味付け。ふと口ずさんだメロディーを、そのまま歌にしたような軽やかさがある。そしてやはり魅力的なのが、程良く力が抜けた中山の歌声で、人懐っこいようで大人っぽくもあり、猫みたいに聴き手の懐にすっと入り込んでくる。そんなこんなでアルバムからホロホロとこぼれ落ちる11の歌。胸の奥でじわっと溶けて沁み渡る。



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掲載: 2012年12月19日 18:00

更新: 2012年12月19日 18:00

文/村尾泰郎