ロバート・グラスパーのさらなるエクスペリメントによるアーバン・ブルーへの貢献
ブランドの纏うイメージに強固なものがあるとはいえ、ブルー・ノートというレーベルの現在進行形がもはや番号に縛られないのは言うまでもない。ここ数年の彼らは看板娘のノラ・ジョーンズをはじめ、その影響下で見い出されたエイモス・リーやプリシラ・アーン、あるいはノラの先達にあたるカサンドラ・ウィルソン、他にもアル・グリーンやヴァン・モリソンらの大物を抱え、さらにはバード・アンド・ザ・ビーのようなモダン・ポップを擁する度量もある。アーロン・ネヴィルの新作『My True Story』も、そういった良質ヴォーカル路線の一環に違いないし、2月に控えるアニタ・ベイカーの新作にも期待できそうだ。
一方、ジャズ方面から最近のレーベルを魅力的に輝かせているのは、ホセの新作にも関与したロバート・グラスパーだ。彼の手掛けたリオネル・ルエケの『Heritage』(ここに参加したグレッチェン・パーラトの『Lost & Found』でもグラスパーのイイ仕事は確認できる)はもちろん、その流れに日本から呼応したのがquasimodeの近作や平戸祐介のソロだったと言える。で、そんなキーマンの勢いを象徴する金字塔『Black Radio』にリミックス集『Black Radio Recovered: The Remix EP』が登場、年明けに日本盤化されることになった。
件の『Black Radio』はジャズ好きの間で賛否両論だったらしいが、グラスパーのジャズは〈J・ディラ以降のネオ・ソウル〉という意味での〈ヒップホップに同期したジャズ〉である。つまり、彼なりのソウルクエリアンズ作法が試みられたオリジナルに対し、今回のEPは彼にとってのウマー感覚を突き詰めた結果なのかもしれない。リミキサー陣は9thワンダー、ピート・ロック、ジョージア・アン・マルドロウら。いやでも〈Amerikah〉なムードが立ちこめるわけで、そのエリカ様の歌う“Afro Blue”は9thのファットなループがフォンテのラップを導く出色の仕上がりだ。ジョージアによる“The Consequences Of Jealousy”も宇宙的なアフロ感が冴え渡っている。さらに、リトル・ドラゴンのカヴァー(のクエストラヴ・リミックス)と、コモン“The Light”も交えた未発表のディラ曲メドレー第2弾“Dillalude #2”を繰り出してくる流れには、グラスパーらしい現代的なクールとブルーを味わうことができるだろう。
▼関連盤を紹介。
左から、アーロン・ネヴィルのニュー・アルバム『My True Story』、リオネル・ルエケの2012年作『Heritage』、quasimodeの2012年作『SOUL COOKIN'』、ロバート・グラスパー・エクスペリメントの2012年作『Black Radio』(すべてBlue Note/EMI Music Japan)
▼『Black Radio Recovered: The Remix EP』参加者の関連盤を一部紹介。
左から、9thワンダー&バックショットの2012年作『Solution』、ピート・ロック&スミフン・ウェッスンの2011年作『Monumental』(共にDuck Down)、ルーツの2011年作『Undun』(Def Jam)、ジョージア・アン・マルドロウの2012年作『Seeds』(SomeOthaShip Connect)、ブラック・ミルクの2010年作『Album Of The Year』(Fat Beats)
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掲載: 2013年01月18日 13:00
更新: 2013年01月18日 13:00
ソース: bounce 351号(2012年12月25日発行号)
文/出嶌孝次