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インタビュー

きのこ帝国 『eureka』





轟音と残響音が幻想的なギター・サウンド、生死を綴ったディープな詞世界、フォーキーなメロディーが織り成す、危うくも美しいサウンド。前作『渦になる』は、まさにフィードバック・ノイズの如くジワジワとロック・リスナーへ広がり、中毒者を増やしていった。あれから9か月、きのこ帝国が完成させた初のフル・アルバム『eureka』は、ここに至るバンドのムードが反映されたであろう、前作よりやや明るめのトーンが特徴的だ。

「『渦になる』を出す前はものすごくナーヴァスになってたんですけど、出してからは徐々に楽になっていきました。いろんなイヴェントに出るなかで、メンバーに〈もっと上手くなりたい〉っていう貪欲な気持ちも出てきて。実際、それが演奏やステージングに反映されるようにもなってきて、この1年は結構楽しかったですね」(佐藤)。

「プロフェッショナルな方々は、ライヴの組み立て方も熱量もすごいし、やっぱり巧いバンドのリズム隊はホントにかっちりしてるんです。最近共演したsleepy.abもすごく刺激になって、自分たちも高いところをめざそうっていう意識は強くなりました」(谷口滋昭)。

山中湖で合宿を行い、エンジニアに凛として時雨やクリープハイプなどを手掛ける采原史明を迎えてほぼ一発録りで制作された新作は、ライヴで培われたバンドのダイナミズムがグッと凝縮されている。

「ライヴをそのまま再現するというわけじゃなくて、ライヴで聴いている時の迫力みたいなものをCDでも感じられるように、ということを考えてましたね」(西村“コン”)。

アルバムのオープニングを飾るのは、生きることに絶望した醜い夜鷹が命を懸けて夜空を飛び続け、いつしか星になるという宮沢賢治の小説「よだかの星」を歌詞のモチーフとした“夜鷹”。佐藤のポエトリー・リーディングとスケール感のあるサウンドが合わさった、彼らの新機軸だ。

「宮沢賢治は同郷なので、生活に馴染んでいると言ってもいいぐらいなんですけど、久しぶりに『よだかの星』を読んだら、自分たちが音楽でやってることとリンクする部分もある気がしたんです。曲に関しては、パンパンの塔っていうバンドや、THA BLUE HERBが好きなこともあって、それっぽい感じにしようとスタジオでしゃべりながら作っていったんです」(佐藤)。

「星をテーマにした曲だったので、ギターはShing02“星の王子様”みたいにしたいと思って作りました。この曲はライヴごとに佐藤さんの感じが違って、いいんですよね」(あーちゃん)。

タイトル曲と言っていいであろう“ユーリカ”は、ダークな曲調や強烈なリヴァーブ、獰猛なリズムがダブステップを連想させる構築的なナンバーで、彼らの音楽的な成長を如実に感じさせる。一方、バンド最初期の曲で、強い思い入れがあるという“ミュージシャン”なんてものも。

「この曲を作ったのは(忌野)清志郎さんとか志村(正彦)さんとか、ミュージシャンが続けて亡くなられた年で。これを作ってすぐ後にアベフトシさんも亡くなられたこともあって、不謹慎な曲を作ってしまった気がしていたんです。当時は(作ったことに)後悔もしたんですけど、歌い続けていくうちにミュージシャンだけじゃなく、もっといろんな人にとっての大切な人について歌った曲でもあると思えるようになったので、今回入れました」(佐藤)。

表現の深みはそのままに、〈成長することが楽しい〉と口を揃える現在の4人は、非常に良好な状態にあると言って間違いない。きのこ帝国という渦はこれからも広がり続け、もっともっと多くの人を巻き込んでいくことだろう。



PROFILE/きのこ帝国


佐藤(ギター/ヴォーカル)、あーちゃん(ギター)、谷口滋昭(ベース)、西村“コン”(ドラムス)から成る4人組。2007年に東京で結成。翌2008年より本格的にライヴ活動を始め、『1st demo』『夜が明けたら』と2枚のデモ音源をリリース。2011年にkilling Boyのライヴでオープニング・アクトを務めたのをはじめ、大きいイヴェントにも出演するようになる。2012年に現在の所属レーベル=DAIZAWAのコンピ『代沢時代〜Decade of Daizawa Days』に楽曲が収録される。同年5月にミニ・アルバム『渦になる』を発表。タワレコの企画〈タワレコメン〉に出演するなど、さらに認知を広めるなか、2013年2月6日にファースト・フル・アルバム『eureka』(DAIZAWA)をリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年02月04日 13:30

更新: 2013年02月04日 13:30

ソース: bounce 351号(2013年12月25日発行号)

インタヴュー・文/金子厚武