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インタビュー

UNISON SQUARE GARDEN 『CIDER ROAD』

 

〈十全なリズム、ビート、しかしてハート それぐらいで十二分オッケー〉──そう彼らは歌う。けれど、その〈それぐらい〉こそ難易度の高い命題で……自身のポップ哲学を突き詰め、更新した新作がついに完成!!

 

 

ポップ哲学に基づく暴走

「今回初めて、客観的に見て良いアルバムだと思いましたよ。誰から否定されても〈いや、僕らはこういうふうですけど何か?〉って言えるぐらいの自信がありますね」(鈴木貴雄、ドラムス)。

UNISON SQUARE GARDENの持つ独自の哲学が明確な音像となった作品がついに完成した。4枚目のアルバム『CIDER ROAD』は前作から1年7か月ぶりのリリースとなるが、実は、構想はそれ以前からあったという。ここまでの道のりは決して平坦なものではなかったと田淵智也(ベース)は振り返る。

「とにかく〈この曲たちを音源にしなきゃ〉という思いだけで、悪く言えば〈暴走〉という形で突き進んできたんですよ。〈この方法が間違ってるはずはない〉って俺が思わないと、今回の制作はたぶんどこかで終わってたと思います。自分のポップ哲学や狙いがしっかりあって、こういうやり方じゃないと伝わらないリスナーが絶対にいると。その人にどうしても聴いてもらいたいんだ、という思いで作ったアルバムですね」(田淵)。

では、彼らが掲げる〈ポップ哲学〉とはいったい何かというと、ひとことで言えば〈最高のロック・バンドが完璧なポップスをやる〉ということだ。その、シンプルだからこそ極めて難易度の高い命題への挑戦が、バンド・ヒストリーそのものだと言ってもいい。

「2010年頃に〈これは誰もやってないポップスなんじゃないか〉と思えるやり方に気付いたとき、ものすごい数の曲を書けたんですね。それまでは、自分の頭のなかで鳴ってる音楽と実際世に出たものが違うことに悩みながら曲を作っていたんですけど、そこで大きく変わりました。その断片は前作の『Populus Populus』にも入ってますけど、それが今回のアルバムで完成したと思ってます」(田淵)。

キャッチーなポップスとしても通用するメロディーを持つ、スピード感たっぷりのダイナミックなロック・ナンバー“to the CIDER ROAD”で本作は幕を開ける。この1曲を聴くだけでも、例えば“オリオンをなぞる”などアニメのタイアップで彼らを知ったライトなリスナーも、〈何かが違うぞ〉と思うに違いない。

「〈1曲目からとんでもないことになってるぞ!〉ということをやりたくて、前作ならクライマックスにあたるような曲を1曲目に持ってきたんです。昔から自分が行かなきゃいけない道があると思ってるんですけど、それは〈ロック・バンドなのに何でこんなことしてんの?〉って言われるようなことだったりするんですよね。ここまでエッジの立った音でわかりやすいポップスをやるバンドはいないと思っていて、それは何でやんないか?と言ったら、たぶんカッコ悪く見えるからだと思うんですよ。〈いまさら王道のコード進行なんて〉〈小難しくて言葉数の多い歌詞なんて〉みたいな。でもそれがいちばんやりたいことだし、自分たちが進む道を〈誰も邪魔すんじゃねえ!〉という思いがこのアルバムには詰まってると思います」(田淵)。

では〈暴走〉とみずから表現するほどの情熱を傾けて制作をリードした田淵を、斎藤宏介(ヴォーカル/ギター)と鈴木はどう見ていたのか? それは言うまでもなく〈とことんやれ!〉で、バンド一丸となって進む方針に迷いはなかった。

「田淵の情熱はすごく感じてたので、自分はそのすごさを伝えるために、あえて俯瞰の目線で曲を捉えたんですよ。だから今回は3人以外の楽器を入れてみたり、曲ごとにいろんなギターやアンプを使ってみたりして、バンドの世界がすごく広がっていったんじゃないかな」(斎藤)。

「そうやって音を重ねれば重ねるほど、〈やっぱりユニゾンのメロディーってポップだったんだな〉って思いましたね。ホーンを入れた“like coffeeのおまじない”もそうだし、いままでほとんどやったことのないスロウなテンポの“光のどけき春の日に”もそう。“光のどけき春の日に”は歌詞もすごく好きで、ようやくこういう言葉を歌える年齢になってきたんだなと思いますね」(鈴木)。

 

言葉とメロディーによるミラクル

そう、サウンドだけじゃない。〈最高のロック・バンドが完璧なポップスをやる〉という命題に加え、〈心揺さぶるメッセージ〉がUNISON SQUARE GARDENには欠かせないのだ。作詞家として〈できることはすべてやった〉という田淵の言葉は、これまでのユニゾンを象徴する抽象的でロマンティックな言葉使いから大きく変化を遂げ、ダイレクトに聴く者の心に突き刺さる、具体的な表現が圧倒的に増えた。それに伴い、斎藤の表現力も前作と比べて格段の進歩を遂げている。

「例えば“お人好しカメレオン”みたいな込められた思いが強い曲に関しては、ストーリーテラーとしての立場を意識した歌い方をしてます。それだけで十分強い歌になるから。今回は歌詞によって、いろんな歌い分けをしてますね」(斎藤)。

「言葉がメロディーに乗った時にミラクルを起こすことが、常に僕のいちばんやりたいことなんですよ。でもそれと同時に僕には天邪鬼なところもあって、誰かが真理みたいなことを言うと、絶対反発したくなるんですよね。たとえば震災があって〈絆が大事だ〉ってみんな言ってる時に、〈違うだろ、一人で生きていかなきゃいけないんだよ。自分で立ち上がらなきゃいけないんだよ〉って僕は思ったし、それを“お人好しカメレオン”や“to the CIDER ROAD”みたいな曲ではちゃんと言えたと思うので。そういうものにリスナーは救われたりするんじゃないかな?っていう思いがすごいあるんですよね。特に学校や社会のなかで、自分は独りぼっちだと思っているような人にとっては。ユニゾンをやることによって、僕のなかではそういう人の人生をもうちょっと幸せなものにできるんじゃないか?という過信がどんどん確信に近付いてきていて、そのために自分を曲げるわけには絶対にいかない。そのうえで音楽として楽しんでもらいたいという、そういうことをやり続けたいという意志が今回のアルバムなんだと思います」(田淵)。

饒舌に語りながら、田淵は「でも、こんな作り方をしてたら1~2年で死にますよ」と笑ったが、きっと彼らはやり続けるに違いない。あとはこの『CIDER ROAD』が、より多くのリスナーの心を撃ち抜くことを願うのみだ。〈出会えて良かった〉と心から思える、こんなアルバムは本当に稀少な確率でしか生まれないのだから。

 

▼先行シングルを紹介。

左から、“流星のスコール”、“リニアブルーを聴きながら”(共にトイズファクトリー)

 

▼関連作品を紹介。

2月6日にリリースされるUNISON SQUARE GARDENのライヴDVD「UNISON SQUARE GARDEN ONEMAN TOUR 2012 SPECIAL 〜Spring Spring Spring〜at ZEPP TOKYO 2012.04.21」(トイズファクトリー)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年02月04日 13:50

更新: 2013年02月04日 17:30

ソース: bounce 351号(2012年12月25日発行)

インタヴュー・文/宮本英夫