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インタビュー

松本蘭

「演奏は自己表出。その音楽世界を自由に聴いてほしい」

「デビューアルバム『蘭イング』から3年を経て、様々な舞台を体験し、人々と出会い、少しは成長したと自負しています。その姿を聴いていただきたくて」と、松本蘭自ら名付けた『Grow』。自信作だ。なるほどタンゴやジャズ、オリジナル曲が並ぶアルバムは、チェロの古川展生やピアノの近藤亜紀らの共演を得て、松本の豊かな表現力が溢れ、多彩。聴き応えがある。

アレンジはプロデューサーでもある井上鑑。彼の音楽力や人柄に接して、松本自ら力添えを頼んだという。その彼から、「今まで多くの演奏家のために曲を書き、様々な曲をアレンジしてきたが、自分が意図し表現したいと思っていることを、ここまで再現してくれた人は少ない」と電話で伝えられたという。これ以上の賛辞はない。その井上もライナーノーツに書くが、松本の演奏には中低音域の響きの魅力が際立つ。大人らしい艶やかささえも感じる。

「大人っぽさはタンゴを中心に据えたからでしょうか。タンゴを知ったのは桐朋の1年生の時。ピアソラ没後10周年にあたり、バンドネオン奏者小松亮太さんと、オーケストラの団員として共演させていただいたのがきっかけです」 その結果、松本はピアソラに「体の血液が逆流するほどの衝撃と高揚感」を味わう。「なぜあんなに高揚したのか。それが知りたい」。そこで小松のステージで使って欲しいと直談判し、2年間ほど彼と演奏する機会を得る。その際、松本は小松にピアソラの82年の初来日公演の録音を聴くように勧められる。「でもこれを聴いたら他の音楽が色褪せてしまうかもしれないよ」と。確かに神様がそこに居るような音楽だった。その中の一曲が《タンガータ》だ。

「この曲は絶対アルバムに入れたいと思っていました。タンゴ風ソナタという 《タンガータ》はタンゴとソナタを掛け合わせたピアソラの造語ですが、クラシック音楽に憧れてフランスまで留学したピアソラのクラシックへの思いや、クラシックとタンゴ、それぞれの魅力が凝縮している。だからこそピアソラ独自の世界を創ることができたと思う。そこに共感するのです」

3歳からヴァイオリンを習い、クラシック音楽に対する憧憬は常にあるという松本のデビューアルバムはクラシック音楽が中心だったが、ピアソラに共感する松本だからこそ、今回は全く違った自分を聴かせたかったと言う。

「どのジャンルにも素晴らしい音楽があり、それらと私がどう対峙し表現するか。根底にあるのはクラシックですが、私というフィルターを通して素晴らしい音楽を伝えていきたい」 納得の行く『Grow』を作り出せたからこそ、「次は王道の音楽を」と、大きな瞳が輝いた。

LIVE  INFORMATION
『GROW ~ CD発売記念スペシャルコンサート』

出演:松本蘭(vn)井上鑑(key)近藤亜紀(P)北村聡(bandoneon)
3/9(土)16:00  開演
会場:東京 ヤマハホール
http://www.j-two.co.jp/ran/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年02月20日 15:53

ソース: intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)

取材・文 山口眞子