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インタビュー

姜建華(ジャン・ジェンホワ)


二胡に不朽の命を授け、幽玄の境地を拓く、大輪の花

姜建華

高らかに歌う澄明な音色から、かすれた筆致のごとき余韻まで。ジャン・ジェンホワが奏でる二胡には、格別の響きがある。小澤征爾に見いだされ、世界の大舞台を踏んできた彼女は、まさしく円熟の境地を迎えている。熟慮の末、6年ぶりに臨んだ最新録音。「悩んできて、今までで一番いい、満足できるものが録れた」と、にっこり。

「ときどき、CDを人に聴いてもらうのが怖いんですね。ステージで〈気〉を込めて、本当に気持ちよく弾けたのに、大ホールでも生音なら伝わるのに、録音だと違う。やっぱり響きの違いなんですね。今回は長い時間をかけ、真剣に考えて寝かせ、勉強させてもらって、スタジオも含めていい条件で、最高のアーティストに参加していただきました。選曲も思い通りに……民俗楽器のルーツ、芯の部分と、民俗楽器を超えた芸術性の表現で、二胡の存在感を楽しんでいただけると思います」

自信にみちた口調は、その音色にも似て、懐深くまろやか。ヴァイオリンの中央2本と調弦が同じだが、共鳴胴は小ぶり。限界のある楽器だからこそ、内なるエネルギーが有効なのだろう。

「例えば《精霊の踊り》では、普段使わない高音域ぎりぎりまで、ぐーっと気を変えて輝かせる。作曲家の書いたキーには意味があるので、私はクラシックの曲を弾くときも、原曲のキーを変えません。《カッチーニのアヴェ・マリア》のように歌い上げるのも、二胡の武器のひとつです。でも二胡とオーケストラはあるけれど、ギターとピアノ、チェロとの組み合わせは、中国にもありません。ステージでたくさん弾いてきましたが、こういうレパートリーを録音するのは初めてなんです」

伝統の楽器編成でも、ひときわ斬新な《雪山魂塑》は、「日本では知られていないけれど、これまで以上に、テクニック性が高い楽曲」。新アレンジを得た《空山鳥語》や、小澤征爾との思い出のデビュー曲《二泉映月》の再演などは、二胡の歴史と自身の芸歴を、重ねて託す意図があったという。
笙を交えた《漢宮秋月》の編成も珍しい。

「皇宮の女性が寂しくて……この音が聞こえてくる。昔、日本の雅楽にあたる宮廷音楽で使われていましたが、今の中国には笙がありません。60~70年前に改良され、鍵盤になってしまって……博物館で見ただけで、実際の音を聞いたことがなかった。中国の方も喜ぶと思います」

故郷の音楽家をも驚愕させる試み満載。彼女は伝統楽器に不朽の命を授け、幽玄の世界を拓く。もはや、癒しのキーワードよ、さらば!だ。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年02月22日 15:54

ソース: intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)

取材・文 佐藤由美