インタビュー

SHANTI


「私の知らなかった私」の発見
それは全ての可能性へのスタート


SHANTIア写

SHANTIの新作『Jazz en Rose』は、初めてクリヤ・マコトと全面的に組んだ作品。収録曲は、ジャズのスタンダードからポリス、イーグルス、フィービー・スノウなど選曲の幅が広く、それらをジャジーな演奏で歌う。

「クリヤさんとは前作『LOTUS FLOWER』のボーナス・トラックで初めて組み、何度かデュオでライヴを。これまでは、ギターをメインにした独自のサウンドを追及してきたけれど、ひとつやりきったという思いがあり、クリヤさんのピアノと組みたいと考えました。彼とは共通点もあるけれど、本来のベクトルは全く違う。それがまたおもしろく、私の知らなかった私が引き出されたりもしました。基本的に私の幅広い音楽性を残しつつ、ジャズに軸足を置いた作品になっています」

アレンジとプロデュースを全面的にクリヤ・マコトに委ねる。初めての経験は、不安の連続でもあった。彼の「明確なビジョンが僕の中にはあるから」という言葉を信じていたが、ハプニングもあった。例えば、パリでのレコーディング。行ってみたら、電力不足でスタジオが使えなかった。

「日本ではあり得ないですよね(笑)。結局クリヤさんが自分用に押さえていたスタジオで1曲だけ《スマイル》をレコーディングしましたが、当初はこの曲をやる予定はなかった。スタジオ入りする10分前に決まって、準備が整っているとは言えなかったけれど、もしこれがライヴであれば、観客を前にして歌えないとは言えない。そう思って歌いきりました」

その《スマイル》がいい。生々しいライヴ感があって、時間もない切羽詰まった状態でのレコーディングだったからか、何かに肉迫するような渇望感があって、新たなSHANTIを知る歌になっている。オランダで発売されたアルバム『Cloud9』で組んだヴォーカル・ディレクターの「もっともっと表現をして」というアドバイスも功を奏したのかもしれない。

彼女自身は「アドヴェンチャラス」という言葉で表現したが、《スマイル》に限らず全ての局面においてスポンテニアスが貫かれた。

「アレンジも枠組みはしっかりあるけれど、いい意味でざっくりしていて自由度が高いので、突然チェロを入れてみよう、とか現場でどんどん発展していく。私は、それに瞬時に応えなくてはいけない。今回は、その積み重ねで完成された作品ですね」

スポンテニアスは、選曲にも反映された。1曲だけ日本語で歌う《木綿のハンカチーフ》がある。意外な選曲というのが第一印象だったが、これも彼女の鼻歌を聴いた彼の「いいじゃない、やろうよ」という反応から追加された。その判断が正しかったことは歌を聴けばわかる。愛らしくて、新鮮な歓びがある。

「クリヤさんに私を鍛えるつもりはなかったと思うけれど、結果として多少のことでは動じなくなりましたね(笑)。いつもの方法ではなく、一歩外に足を踏み出して、クリヤさんのやり方に自分を委ねることで、視野が広がったし、自分の歌の成長にもつながったと思います」

収録曲の中で1曲、オリジナル楽曲《タイム・トゥ・ゴー》がある。盟友木原良輔とコラボしたもので、ライヴではすでに歌っている曲だ。

「とてもパーソナルな曲です。離れて暮らす父に代わって、まるで里親のように私をかわいがってくれて、音楽活動を応援してくれていた親しい方が2人続けて亡くなってしまった。その経験を通して考えさせられた死とどう対峙するかをテーマに書いた曲です。彼らは、父の親友でもあったので、父を大事にしなくてはとも思いました」

それもあって今回4曲で父のトミー・シュナイダーがドラムを演奏している。SHANTIの作品では初めての親子共演。あらためて父に対するリスペクトの気持ちが湧き上がってきたという。
さて、チャレンジングな作品で、サウンドもこれまでと大きく異なる。SHANTIとクリヤ・マコトの大きな共通点であるヨーロピアン・テイストが全編で生かされている。インタヴューでも「ステップアップ」、「全ての可能性のスタート」という言葉が何度も繰り返されたが、彼女自身は、今回の作品をどう位置付けているのだろうか。

「今の時代の感性を古い曲の中に正直に反映させる。また、古い曲を今の時代に継承させる、という基本のスタンスに変化はないです。ただ今回は、それらの歌を大人の女性の目線で解釈して歌っています。私も30歳を過ぎたので。あともうひとつ、今回の作品でいろいろ広がったことを実感しています。たとえば、《ダット・デア》ではアフリカンリズムを取り入れたり、チェロやヴァイオリンとも初めて共演したり。それらが今後のポテンシャルにもつながる作品になったと思っています」

話を聞くなかで、第2章の幕が開けたことを強く感じた。チャンスも同時進行している。オランダで制作されたアルバム『Cloud9』のアメリカ、カナダでのリリースが決定。また、新作の発売前に公開される話題作『遺体 ~明日への十日間~』のエンディングテーマも担当している。SHANTIの名前と歌が多方面で聴かれることになりそうだ。

FILM   INFORMATION
『遺体~明日への十日間』
脚本・監督:君塚良一
原作:石井光太『遺体 震災、津波の果てに』(新潮社刊)
音楽:村松崇継
エンディングテーマ:SHANTI「Pray for the world」
出演:西田敏行/緒方直人/勝地涼/他
◎2/23(土)全国公開

http://www.reunion-movie.jp/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年02月22日 16:39

ソース: intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)

取材・文 服部のり子