インタビュー

トーベン・ヴェスタゴー



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Torben Westergaard & Diego Schissi

デンマークとアルゼンチン、暗闇と追憶のジャズ&タンゴ

トーベン・ヴェスタゴーは、デンマーク生まれのジャズ・ベーシスト兼作曲家。もっとも、このジャズメンはラテン音楽に大きな影響を受けており、エルメート・パスコアールやトニーニョ・オルタと共演したこともある。一方、ディエゴ・スキッシは、アルゼンチン人。普段はタンゴの五重奏団を率いて活動しているピアニスト兼作曲家だ。ただし、このディエゴ・スキッシ・キンテートはアストラ・ピアソラの楽団と同じように、「タンゴ」を逸脱したジャズ〜プログレ的な演奏をする。つまりこの北欧と南米出身の2人は、かけ離れているようでいて、意外と近い関係にある。今回のプロジェクトは、トーベンからの提案をきっかけに実現した。

「今回は最初からブエノスアイレスで録音するつもりで、僕はそのための共同制作者を探していた。そしたらデンマーク在住のアルゼンチン人の友人がディエゴを紹介してくれたんだ。インターネットを通じてディエゴの音楽を聴いてみたんだけど、すぐにいけると直感したよ。もちろんディエゴの音楽自体にも感動したけど、それ以上に僕と彼の音楽をミックスしたら、きっと素晴らしいものになると直感したんだ」

『タンゴファイド』は、全編トーベンのオリジナル曲。演奏は、トーベンとディエゴ・スキッシ・キンテートの6人によって行われている。ただし、通常のディェゴ・スキッシ・キンテートからダブル・ベース奏者が外れ、その替わりにチェロ奏者を加えた編成になっている。

「作曲家としては、余計なものをすべて取り除き、本当に必要不可欠なものだけで成立している曲を書くことを心がけた。ディエゴが編曲家兼ピアニストとしての個性を存分に発揮できるようなスペースを作るためにも。言うなれば、僕が原作を書き、ディエゴがその原作をもとに映画を作ったという感覚に近い。僕は、幸運にもその映画で役をもらえたという感じだね」

『タンゴファイド』の4曲目の曲名は、《スカンディロンガ》(Scandilonga)。「スカンジナビア」と「ミロンガ」を合わせたこの造語は、今回のプロジェクトを象徴している。

「全く異なる2つの文化をどのように出会わせ、なおかつ共存させることができるか。今回のプロジェクトのコンセプトは、この点につきる。ただし、北欧の音楽とアルゼンチンのタンゴの間には、内省的な感覚とメランコリックな雰囲気という共通点がある。アルゼンチンのタンゴに関して言えば、おそらくこれらの感覚は、アルゼンチンに移民して来た人々の母国への追憶から生じたのではないかと思う。そして北欧の音楽に関して言えば、これらは北欧の冬の厳しさや暗闇に起因していると思うよ」

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年02月22日 14:12

ソース: intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)

取材・文 渡辺亨