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インタビュー

スチュイ・フォン・ワッテンヴィル

真骨頂のバラードに、盟友との再競演も

ヨーロッパのジャズ・シーンを代表するピアニスト、スチュイ・フォン・ワッテンヴィルの新作『アフター・ザ・レイン』がリリースされた。本作は、米国のテナーサックス奏者、エリック・アレキサンダーとの共演によるライブ録音とスチュイ率いるトリオによるスタジオ録音という、2種類の録音で構成された内容だ。

「2012年の冬に、エリックと僕の国スイスをツアーした。その際、ツアーの一環として行った2月12日のライブを録音したんだ。じつは、この新作は自作曲をメインに僕のトリオでスタジオ録音を行なう予定だった。ところが、レギュラー・ドラマーの具合が急に悪くなって、探した代わりのドラマーが一日だけ引き受けてくれた。だけど、CD一枚を作るのに充分な曲の数の録音はできなくて、それなら、スタジオ録音と共に、2月に録音したエリックとのライブ音源も収めようということになったんだ」

新作のタイトル曲はジョン・コルトレーンの名曲。スチュイはピアノ・ソロで演奏している。

「この曲には力強いメロディとハーモニーがあり、自由な解釈が許される。僕は予想できない場所に行きたいと思って、弾いてみたんだ」

コルトレーンの深い精神性が息づくこの曲を、スチュイは自身の内面に静かに降り立つように、じっくりと弾いている。そして、新作のラストに収められたデュオ演奏はホレス・シルバー作の《ピース》だ。ここで、スチュイはホレスのオリジナルとは異なる味わいのリリカルなサウンドを創出していて、ベースとインティメイトなインタープレイを繰り広げながら、曲の美質を描き出している。また、新作に収録のスチュイの自作バラード曲が秀逸で、それらは陰影のある旋律を持った曲が多く、彼のロマンティックな美意識に触れることができる。

「曲想はピアノと戯れているときに浮かんでくることが多いね。中には、僕の心のドアをノックするようにして生まれた曲もあるよ」

エリックとの共演では、ライブの高揚感から生まれるジャズの熱い息吹が躍動している。スチュイのトリオとエリックとの連係も良く、曲によってはテナーが奔放にブロウし、それにピアノも鋭敏に反応し、演奏がスリリングに展開していく。この、スタジオ録音とライブ録音のコントラストの妙も新作の魅力の一つだろう。

「エリックとは今までに何年にもわたって共演してきた。彼はジャズの伝統を、その本質で理解している男だ。何より、サックス奏者として揺るぎない自分の音を持っていて、そこには、大きさ、力強さ、温かさが同居している。しかも、フレイジングは完璧だ。そんな彼のプレイもこの新作で堪能してほしいね」

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年02月26日 14:12

ソース: intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)

取材・文 上村敏晃