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インタビュー

ACIDMAN 『新世界』



スケールの大きなテーマのなかにさまざまな仕掛けを忍ばせて——〈新世界〉を描きながら、彼ら自身が新世界を拓いたような新作!



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「もっと違う場所に行きたい、っていう気持ちがいますごく強いんですよ。デビュー10周年を記念したツアーを経て、これまでやってきたことへの自信やファンへの信頼は強まったんだけど、同時に、至らないことがすごく見えてきたんです。いつまでも同じところに留まっていてはいけない。もっとこう、新たなものを……っていうのを求めているんです」。

ACIDMANのフロントマン・大木伸夫の表情には充実感が漲っている。もっと違う場所へ——その思いに駆られて制作された9枚目のアルバム『新世界』に描かれているのは、いままさに世界が生まれ変わる瞬間を体験している10人の主人公が織り成すストーリー。それぞれの星、それぞれの次元に住み、互いに関わりはないけれど、どこかで繋がっている。まるで短編小説集のような味わいだ。 「いちばんの難関は、飽きさせないこと。だから曲順も、あえてイメージが全然違う曲を次々に並べてみた。1曲1曲は長いんだけど、気付けば終わっているという作品にしたくて」。

インストゥルメンタルの3曲を含め、音楽的にも個性の強い13曲が並んでいる。そのなかには、〈NO NUKES 2012〉で縁のあった坂本龍一がピアノで参加している“風追い人(前編)”“風追い人(後編)”もあれば、TV番組で共演した佐野元春の影響でポエトリー・リーディングを採り入れたという“NO.6”もある。また、ほとんどの曲は大木によるものだが、“アルケミスト”“君の正体”はベースの佐藤雅俊がきっかけを作ったのだそう。このように趣の違う曲が次々と現れるので、醒めることなくエンディングまで旅をすることができる。

「坂本さんにピアニストとしてオファーした“風追い人(前編)”は、5年くらい前に出来ていた曲。ギター・フレーズがすごく〈サカモト節〉だなと思ってて、自分たちの曲として発表することにちょっと抵抗があったんです。でも、もし坂本さんと会えた時に〈影響された曲があるんです〉って言って頼んだらピアノを弾いてくれるんじゃないかなって思っていました。で、実際に直談判したら即答でOKがもらえたので、じゃ、ついでに……ってことでもう1曲(〈後編〉)追加でお願いしちゃいました(笑)」。

ちなみに、この〈風追い人〉とはサード・アルバムの『equal』(2004年)に収録された“彩-SAI-(後編)”に登場する人物。ファンなら思わず反応するような仕掛けだ。さらに、超対称性理論をまるで絵本を読み聞かせるように語る“SUSY”と、それに相対する世界を歌った“白光”との関係性や、冒頭曲の“gen to(intro)”とラストの“to gen(outro)”の繋がりなど、このアルバムには尽きないほどのエピソードが封じ込められている。

「ひとつひとつのエピソードは偶然のように降りてきたものがほとんどなんです。それぞれがこちらの表現したい世界とリンクしていることに気付いた時はまさに痛快でした。“to gen(outro)”の〈gen〉は〈genesis(創世記)〉の意味を込めていたんだけれど、〈to gen〉と表すと〈桃源郷〉の意味も出てくる……とかね。けれどマニアックすぎるから、おそらくそのうちの半分も聴いている人には伝わらないと思う。でもそれすら楽しい(笑)。〈超対称性〉とか、そんなこと理解できなくても全然構わないんです。敷居は高くないのでまずは先入観なく聴いてほしいですね。そして、これを聴いて自分の心が何を感じたか、そこに耳を澄ませてほしいと思います」。



▼関連盤を紹介。

左から、坂本龍一の2012年作『THREE』(commmons)、佐野元春の89年作『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』(ソニー)、ACIDMANの2004年作『equal』(EMI Music Japan)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年02月28日 18:20

更新: 2013年02月28日 18:20

ソース: bounce 352号(2013年2月25日発行)

インタヴュー・文/宮本ゆみ子

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