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インタビュー

「ヴァンパイア」発売記念 岩井俊二監督インタビュー

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「リリイ・シュシュのすべて」「花とアリス」など、これまで独自の世界観で少年少女の揺れ動く内面を描いてきた岩井俊二監督。カナダを舞台にした最新作「ヴァンパイア」もまた、世界からこぼれ落ちてしまった若者達の物語だ。自殺サイトに集まる少女達と、彼女達の血を求めて自殺の手伝いをする青年サイモン。その奇妙な関係を通じて、岩井監督が描きたかったものは何だったのだろう。



社会から孤立しているというか、ちょっと外れている感じ。それが長年のテーマなんです


―今回の映画は、死にたいと願っている少女と殺人者が共犯関係で結ばれているという危うい物語ですね。

「このアイデアを思いついたのは7年くらい前なんですが、これまでにないクライム・サスペンスができると思っていたら、実際にそういう事件が日本で起きてしまった。不謹慎な言い方ですけど、先を越された、という思いと、大変なところまで踏み込んでしまったな、という驚きがありましたね」

―主人公のサイモンはいろんな少女達の死に立ち会いますが、そこで彼女達の人生を垣間みることができますね。

「〈もう死ぬしかない〉というところまで追いつめられた人達の最後の一日だからこそ、そこにいろんな喜怒哀楽があるんです。〈死にたい〉と思っていたはずなのに〈ここで死ぬのはイヤだ〉と思ったり、お腹が空いたり。人間は生きている限り、最後まで喜怒哀楽がある。そこを描きたかったのもありますね」

―サイモンはそんな少女達の血を抜くわけですが、血を抜くシーンがとても印象的で、どこか秘密の儀式を思わせるような雰囲気がありました。

「あれはセックスのメタファーみたいなところもあって。サイモンが少女達の血を見て欲情していくのが観ている側にもわかるように、血を抜くシーンはできるだけ美しく描くようにしました。血を抜いて飲むまでが、彼にとっての性衝動なんです。なぜ、そうなるのかは彼自身にもわからないけど、そういう衝動に駆られてしまうところが〈ヴァンパイア〉なんですよね」



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―少女達の中に唯一の日本人として蒼井優さんがキャスティングされていましたが、彼女を起用した経緯は?

「初めて海外で映画を撮るにあたって、せっかくだから日本の女優と一緒にやれたらな、という気持ちはあったんです。それで彼女と会う機会があった時、この映画の企画の話をしたら、〈あ、それ私やれるじゃん〉みたいなことを彼女が言って。〈英語のセリフ、少しあるけど大丈夫?〉と訊いたら、〈頑張る〉っていうことだったんでお願いしたんです。彼女は性格がわりと型破りなところがあって、そういうところが面白いですね」

―ネットが重要な役割を果たしていたり、登場人物達が孤独を抱えていたり、どこか本作と「リリイ・シュシュのすべて」には共通するところがあるような気がしました。

「「四月物語」「リリイ・シュシュのすべて」「花とアリス」あたりは全部、ひとつのイメージのバリエーションみたいなところがあって。共通しているのは、社会から孤立しているというか、ちょっと外れている感じ。それが長年のテーマなんです。今回は、そういう子達にスポットを当てたようなところもありました、自分はそういうものをずっと見つめ続けていたいんだろうな、と思います。観る側からすると、それはともすれば気持ちいいものではないかもしれませんけど」

―そういうものに目を向けることが監督のテーマなんですね。

「そうですね。「ラヴレター」や「花とアリス」なんかはビターな部分が少ないように見えるんですけど、今回の映画とは同じ根っこから生まれている。今回はハッピーエンドにしよう、いやビターエンドにしよう、と書き分けているわけではなくて、それぞれ同じ種から生まれながら、時には苦く咲いたり、甘く咲いたりしているだけなんです。それは、同じ人間でも出会いや環境によって変っていくのと同じことで。だから、僕が描くキャラクターはみんな兄弟のように繋がっていて同じ世界にいるし、そうあるべきだと思うんですよね」

 



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■PROFILE…岩井俊二

1963年1月24日生まれ。宮城県仙台市出身。1993年、テレビドラマ「ifもしも~打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」で日本映画監督協会新人賞を受賞。1995年、「」Love Letter」で数々の映画賞を受賞。その後、「スワロウテイル」、「四月物語」、「花とアリス」、「リリイ・シュシュのすべて」など話題作を数多く手がける。2012年、実に8年ぶりとなる長編劇映画「ヴァンパイア」を発表。



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記事内容:TOWER+ 2013/3/10号より掲載

カテゴリ : Premier Seat

掲載: 2013年03月10日 00:00

ソース: 2013/3/10

TEXT:村尾泰郎