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インタビュー

ジャケス・モレレンバウム&ジュディ・カン

トリオ演奏の底に流れている、深い音楽的な会話を知る

福岡に滞在中に偶然、坂本龍一トリオ・ツアー2012のコンサート(於/アクロス福岡シンフォニーホール)を聴く機会があった。坂本龍一のピアノに加え、盟友ジャケス・モレンバウム(チェロ)、そして2011年からこのトリオに参加しているジュディ・カン(ヴァイオリン) のトリオである。すでに2011年のヨーロッパ・ツアー後にポルトガルのスタジオで録音されたアルバム『Three』でもお馴染だが、しかしライヴでは楽器と楽器、演奏家と演奏家の対話がより深く意義深いものに感じられた。東京に戻った弦楽器奏者ふたりに聞いた。まず、カナダ出身で韓国系のジュディ。

「レディー・ガガのワールド・ツアーが終わった後で、坂本さんのオーディションの話を聞いて、参加してみることにしました。もともと坂本さんの音楽に関心があったし、それまでとは違う刺激的な体験が出来そうだったから。そして長いオーディションを経て、合格したんです」

レディー・ガガと坂本のツアーではだいぶ音楽的な雰囲気も違うでしょうね、と尋ねる。

「もちろん音楽的にはまったく違う世界ですが、実はレディー・ガガのバックバンドも一種の室内楽なのです。奏者同士の呼吸を感じ、音楽的な息を合わせる。3人だろうが10人だろうが、それは同じです」

チェロのジャケスはすでに長く坂本と演奏を行なってきた。

「坂本と演奏することは、毎回新しい体験をするようなものです。会場も聴衆も違う訳で、その中で最高の演奏が出来るように常に意識しています。そして、坂本のピアノの音の美しさに導かれながら、また新しいインスピレーションを得る。お互いに刺激しあいながら、音楽を育てて行く、そんなツアーです」

阿吽の呼吸と言えば分かりやすいかもしれないが、彼ら3人の演奏はちょっと違うようだ。

「3人でステージ上にいる時は、常に2人が何を考え、何をしようとしているか、それを聞いています。そして、自分はその後にどう参加すべきなのか考えています」とジュディ。ジャケスも、「例えば《Flower is not aFlower》では、僕と坂本が自由に演奏しているように聴こえる瞬間もあるかもしれません。しかし、そこには一種の規律があって、お互いの演奏を聴きあい、そして進むべき方向を見つけ出しているのです」

実際のトリオの演奏を聴いていると、リラックスしているようでもあり、同時にお互いの感覚のアンテナを刺激しあっているようでもある。 その緊張と共感の瞬間をアルバムで味わおう。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年03月25日 12:46

ソース: intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)

取材・文 片桐卓也