インタビュー

HI-D 『Love Life』



トレンドに流れることなく、自分が好きなものを追求した新作。デビュー10周年を迎えてなお挑戦を続けるヴェテランに熱視線!



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日本R&B界の中核を担う存在としてシーンを牽引してきたシンガー・HI-Dが、今年でデビュー10周年を迎える。甘くシルキーなハイトーン・ヴォイス、緻密なメロディーライン——その才能と確かな存在感の証に、これまで果たした客演数は100曲以上! 2008年には彼がプロデュースを手掛ける〈Special Calling〉シリーズをスタートし、AIや青山テルマらとの人気曲を生み出したことはもちろん、山口リサや宏実など新星をフックアップし、R&Bシーンの新たな未来を提示したことも大きな話題を呼んだ。

「ちょうど真ん中の5周年の時に始めた〈Special Calling〉はターニングポイントだったかもしれない。ソングライターとして開眼したというか、すごく進化させられた時期。それがいまのプロデュース・ワークに活きているのを実感します」。

ニュー・アルバム『Love Life』は、通算8枚目にして初の客演がない作品。そのせいか、HI-Dというシンガーの素の魅力が浮き彫りになっているようで、〈こんなHI-Dを聴いてみたかった!〉なんていうバラードが多い、新鮮な内容だ。「流行を意識しないで、自分の好きなものを詰め込んだ」とのことで、なるほど、90年代R&Bのフレイヴァーがところどころに感じられる。

「メロディーとかコーラスワークとか、〈あの当時ってこうだったよな〉っていう要素を入れつつ、言葉の表現はいまっぽくスタイリッシュな感じを意識したというか。あとは、心地良いBGM感。90年代のR&Bって、1枚のアルバムを繰り返しずっと聴いていられるような良さがあったじゃないですか。そういう雰囲気をめざしましたね」。

何にも囚われず、好きなものを追求する。それによって「自分にしかできないこと、〈HI-Dらしさ〉を追求した」という。その背景には、こんな理由があった。

「最近はSUGAR SHACK(FOHなど男性シンガーで構成されたクルー)の活動もあるし、仲間に刺激を受ける場面がすごく多くなっていて。だからこそ他のシンガーがやれていないことをやってみたくなったんです。どこかひとつ〈抜き〉に出たいなと。それで今作はいろいろな挑戦もしている。勝負に出ているんです」。

その挑戦の最たるものが、リリックだ。

「USのR&Bがニクイなって思うのは、ダブル・ミーニングなどの言葉遊び。何でもないストーリーに実はエロスが隠されていたり、そういうのを日本人でありながら英語でやってみたくて、今回は英語詞の曲が多くなってます。逆に日本語詞で言うと、例えば“パズル”っていう曲で、プロデューサーのJINと〈これだけ洋楽ライクな考え方をする俺たち2人が日本語を突き詰めたらどうなるか?〉っていう挑戦をしてみたり。王道R&Bの大サビにどんな日本語を乗せるか?とか、何度も書き直してかなり練り上げた曲ですね」。

日本語と英語が交じり合う全10曲。それでも同じテンション、同じ温度感で違和感なく聴けるのは、彼特有のソングライティング・センスの賜物だろう。

「いまの日本のR&Bシーンは、日本的なコンセプトで作られるものと、USのサウンド感重視のものとで二分化されてしまっているような感じがするけど、本当は両方のいいところを混ぜられるんじゃないかなって。それが上手くいったら本当の意味で〈J-R&B〉ってものが確立されるような気がするし、僕自身そこはこれからも挑戦していきたいですね」。



▼関連盤を紹介。

左から、HI-Dの2011年作『MY WAY』(HOOD SOUND/Village Again)、2009年のHI-Dのプロデュース作『Special Calling 〜session 2〜』(plusGROUND)、SUGAR SHACK FAMILYの2011年作『SUGAR SHACK FACTORY』(SAVAGE)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年05月22日 15:15

更新: 2013年05月22日 15:15

ソース: bounce 354号(2013年4月25日発行)

インタヴュー・文/岡部徳枝