JACK BEATS 『Careless』
ディプロを中心に、A・トラック、クルッカーズ、フェイク・ブラッド、ハーヴ、スウィッチなど、気が付けばコミュニティーのようになっている、エレクトロ〜ベース・ミュージック界のVIPたち。ハウスにヒップホップ、ダンスホール・レゲエ、ファンキ、クドゥル、ダブステップなどなど、さまざまなトレンドを貪欲に折衷する彼らのサウンドには、ありきたりなカテゴライズを拒むおもしろさがある。今回紹介するジャック・ビーツもそんなエクレクティックなエレクトロニック・サウンドで世界をロックしているDJコンビだ。
「もともと別々で音楽活動をしていたんだけど、実はもう15年くらい前からの親友なんだ。ある日リミックスをいっしょに仕上げようってなったのがきっかけで、コンビを組むようになったんだよ」(ベニーG:以下同)。
共にDMCで輝かしい経歴を誇り、バトルDJとして名を馳せてきたベニーとDJプラス・ワンだが、2008年にACスレーター“Jack Got Jacked”のリミックスをヒットさせて以降、かつての栄光をみずから葬り去る勢いで躍進し続けている。ビヨンセ、ラ・ルー、レディ・ソヴァリン、パッション・ピット、スクリームなど数多のリミックス・ワークを成功させたかと思えば、チープ・スリルズからリリースした『U.F.O. EP』のヒットではオリジナル・トラックを作る能力の高さも証明してみせた。その素晴らしさに魅了された一人が、現在ジャック・ビーツが所属するOWSLAの主宰者、スクリレックスである。
「サニー(スクリレックス)と出会ったのは、2、3年前、俺たちがLAのフェスに出演した時だったけど、その後もいろんな国のショウで彼を見掛けるようになって、ごく普通に友達付き合いするようになっていったんだ。だからその流れで、新曲が出来上がった時に、彼に〈聴いてみてよ、気に入るようだったらリリースしてみない?〉って電話したぐらいの感じだね」。
このたび日本限定でリリースされた編集盤『Careless』は、そのOWSLAからデジタルでリリースされた2つのEP(『Careless EP』と『Somebody To Love』)を中心に構成されている。ディプロとアイデアを出し合って完成させたトラックに友人のイグザンプルが歌を乗せた、異形のベースラインが唸るバウンス・ナンバー“War”、あるいはEDM系のキャッチーな展開にジェシー・ミルズを招いた“Somebody To Love”など、「俺たちが影響を受けているヒップホップを軸に、他の要素をいろいろメルティング・ポットに加えて完成させていった」雑食性のある楽曲が並ぶ。ハイライトはジャック・ビーツが好む重要な要素……オールド・スクール趣味を爆発させた“All Night”だ。この曲は2001年にジョンBがメタルヘッズからリリースしたドラムンベース・クラシック“Up All Night”のリメイクである。
「ジャングルやドラムンベースも大好きだったし、良くレイヴに遊びに行ったりDJにも使っていたから、その頃の名曲をリメイクするアイデアはずっと持っていたんだ。そして、“Up All Night”のテンポを下げた瞬間、これだ!って閃いてしまったのさ。そこから、パーツを一つ一つ自分たちで作り直していったんだ。ただ、オリジナルがそもそも名曲だから、作業を始める前にまずジョンBとゴールディーがリメイクに賛成してくれるかを優先して確認したりもしたんだよ」。
さて、この充実した楽曲群を引っ提げてこの夏には〈フジロック〉への参戦も決定している彼ら。「まったく驚くこともなく、良いパフォーマンスを行うことだけに集中しているよ」と、バトルDJ時代に身につけた高度なスキルを自信に転化し、オーディエンスを熱狂の渦へと巻き込む、あの超絶パフォーマンスを体験できるチャンスは目の前だ!
PROFILE/ジャック・ビーツ
DJプラス・ワン(スクラッチ・パーヴァーツ/ダイナミック・デュオ)とベニーG(ミクソロジスツ)から成るユニット。共にバトルDJとして高い実績を誇る両者が意気投合し、2006年頃に結成される。2009年にチープ・スリルズから『U.F.O. EP』を発表し、以降も同レーベルからコンスタントにシングルをリリース。並行してディプロ、スクリーム、ビヨンセ、ラ・ルー、フラックス・パヴィリオン、メジャー・レイザーらのリミックスを次々に手掛けて支持を高めていく。2012年にOWSLAから発表したEPの『Careless EP』と『Somebody To Love』も話題を集めるなか、それらを元にした日本編集盤『Careless』(KSR)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年05月23日 18:30
更新: 2013年05月23日 18:30
ソース: bounce 354号(2013年4月25日発行)
インタヴュー・文/青木正之