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インタビュー

BIBIO 『Silver Wilkinson』



そこにあるのは美しい光景、耳から入って、ただただ心の奥に広がっていく音と音の幸福な連なり。2年ぶりのビビオはさらなるメランコリアの深淵へと潜っていく……



Bibio_A



ボーズ・オブ・カナダが後継者として認めた、フォーキーなIDMの寵児。彼の紡ぐ素朴な旋律を求め、大手企業がこぞって楽曲の制作を依頼する。その男=スティーヴン・ウィルキンソンことビビオが、もともと持ち合わせていたポップなソングライティング・センスをカラフルに躍動させた前作『Mind Bokeh』に続く6枚目のオリジナル・アルバム『Silver Wilkinson』を完成させた。そこに意図的なテーマはあったのだろうか?

「特に明確なゴールやプランを持って作るほうじゃなくて、アルバムは、制作中の自分の行動や聴いているもの、あるいは考えていることのなかから自然と形作られていくような感覚。とはいえ、作品に漂うムードやテーマには漠然としたイメージを持っていることもある。言葉じゃなかなか説明できないけど、この作品ではギターをもっと使いたいと思っていた。前作『Mind Bokeh』より、という意味でね」。

新緑の季節の空気を胸いっぱいに吸い込んだような、ノスタルジックな律動。そして、冒頭曲から愛おしく、郷愁感たっぷりに爪弾かれるギター。そのムードを助長するザラついたフィールド・レコーディングや柔らかな電子音に、往年のファンは思わず唸るのではないだろうか。ウィルキンソンは本作への道程をこう振り返る。

「『Ambivalence Avenue』は温かくオーガニックで、次の『Mind Bokeh』は意図的にエレクトロニック・サウンドが強調されてる。それはある程度自分で意識したうえのことだし、今作がこういうサウンドになったのも、『Mind Bokeh』の制作が後半を迎えるあたりで頭の片隅にあったのかもしれない。そして『Ambivalence Avenue』の制作が進むなかで、次はポップでエレクトロニックな作品を作ろうと思ってたことを覚えてる。これは、個人的には筋の通ったことで、季節の移り変わりみたいなものなんだ」。

本人も認める通り、本作はマッシュ時代の初期作品へ回帰したようなメランコリアがいつにも増して素晴らしい。それは例によって、端正なメロディーやハーモニー、ビートの意匠だけではなく、わざわざ楽器や機材を外へ持ち出してテープへとレコーディングするこだわり(ガールフレンドの目を盗んで、2人で旅行に出た際も隙を見ては音を採取するそう)が閉じ込められている。小春日和の青い開放感がいっぱいの先行シングル“A Tout A L'heure”は、晴天時に庭で録音されたというエピソードに首肯する爽快なポップ・チューン。玄関の鍵穴を通り抜ける風や、高い木々の間の風、コンクリートの廃墟ビルの床で枯れ葉が風で飛ばされている様子など、過去作品にも例にないほどふんだんに使われたフィールド・レコーディングは、ときに内省的なメロディーの浸透圧を上げる。また、雨の日に自宅のガレージで録音された“Dye The Water Green”は、サイモン&ガーファンクルの音楽のように聴き手の心の襞を撫でるだろう。何かを更新しなければならないゲームからは程遠いところで、諸行無常に訪れる四季の変遷を切り取るように自分の音楽やノスタルジーと向き合うビビオ。セルフ・タイトルとも取れる今回のアルバム・タイトルについては、「いずれ訊かれるだろうね。『Mind Bokeh』のタイトルについては、インタヴューで毎回訊かれて秘密を打ち明けるように答えてたけど、今回はそうしないようにするよ。3つの意味が込められてて、白髪(シルヴァー・ヘア)になったときの自分(ウィルキンソン)という意味ではないってことだけ答えようと思う」とはぐらかされてしまったが、何はともあれ、あれやこれやと想像しながら、いまはふたたび到来したビビオという名の愛おしき季節に身を委ねるのが正解だろう。 



▼ビビオのリミックス参加作を紹介。

左から、ゴンジャスフィの2010年作『The Caliph's Tea Party』(Warp)、ネオン・インディアンの2010年作『Mind CTRL: Psychic Chasms Possessed』(Lefse/Static Tongues)、ゴティエの2011年作『Making Mirrors』(Samples'n'Seconds/HOSTESS)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年05月23日 19:00

更新: 2013年05月23日 19:00

ソース: bounce 354号(2013年4月25日発行)

構成・文/藤本もこ

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