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インタビュー

Gregory Porter

善き人たれ……胸を打つ名作アルバムの影に、母の味あり!

グレゴリー・ポーターは、《ファニー、ノット・マッチ》の冒頭の一節「Funny how I've stopped loving you」を口ずさみながら、こう語ってくれた。《ファニー、ノット・マッチ》はマーヴィン・ゲイが憧れていたナット・キング・コールのレパートリーだった曲だ。

「マーヴィン・ゲイの歌い方が物語っているように、彼は昔からナット・キング・コールに影響を受けていた。ただし彼は、コールとは違ったサウンドを追求し続けた。ダニー・ハサウェイにしろ、レオン・トーマスにしろ、アンディ・ベイにしろ、僕が尊敬しているシンガーはみんなそうだ。彼らは単に〈ジャズ〉や〈ソウル〉の伝統に乗っかったわけではなく、各々独自のアプローチで、自分にふさわしいサウンドを追求した。ジャズやゴスペル、R&B、ソウルなどが混ぜ合わされたサウンドを。僕もそうありたいと思い続けてきた」

この発言は、グレゴリーの音楽が〈ジャズ〉なのか、〈ソウル〉なのか? という問いに対るす答えにもなっている。もっとも『Be Good』自体がこうした愚問を一蹴する秀作だが、ともあれ、グレゴリーはいわばナット・キング・コールやマーヴィン・ゲイの子供である。しかも「歌うジャーナリスト」であり、「歌うセラピスト」でもある。こんな彼にもっとも大きな影響を与えたのは、聖職者だった母親。『Be Good』には、その母親をモチーフとした曲《Mother's Song》が収められている。

「母は死ぬ間際まで、人のために何ができるかということを考え続けていた人だった。自分ができることを他人に施す。それが彼女の人生だったんだ。そんな母は、常に僕の心の中にいる。僕にとって母は、音楽の源でもあるんだ」

グレゴリー・ポーターの音楽は、お母さんが家族のために作ってくれるシチューのようだ。口にすると、ほっとする温かいシチュー。もちろん、このシチューには色んな材料が煮込まれており、なおかつグレゴリー自身の人生もスパイスとして入っている。

「“お母さんのシチュー”というのは、これまで見聞きしてきた表現の中で最高の讃辞だ。たしかに僕の音楽は、色んな音楽と感情を煮込んだシチューのようなものだからね。《Be Good》は、僕自身の経験に基づく曲なんだ。4年ほど前、僕はとある女性と別れた。もちろん、僕は傷つき、すごく後悔した。《Be Good》はいわば大人のための子守歌だけど、もともとは自分の心を慰めるために作った曲。つまり僕自身のための子守歌だったんだ」

写真©古賀恒雄/提供:ブルーノート東京

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年05月07日 11:54

ソース: intoxicate vol.103(2013年4月20日発行号)

interview&text : 渡辺亨