インタビュー

THE WANTED 『The Wanted: The EP』



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大仰なことを言うつもりはないが、昨今の日本における〈アイドル〉の扱われ方が変容したり、一連のK-Pop旋風も手伝って、コマーシャルな芸能ポップスというもの自体の価値が改めて認められるようになった気がする。その波及効果もあるのか、往年のテイク・ザットやバックストリート・ボーイズを思わせる形で欧米のボーイズ・バンドにもふたたび一般的な注目が注がれるようになってきた。そんな良いタイミングで紹介したいのがこのウォンテッドだ。

彼らはデビュー数年でUKの頂点に立った5人組である。サタデイズらをマネージメントするジェイン・コリンズの行ったオーディションによって、2009年に結成。翌年7月のデビュー曲“All Time Low”がいきなり全英No.1に輝き、さらに2011年に本国でチャートを制したサマー・アンセム“Glad You Came”が「Glee/グリー」で歌われたこともあって、英国のボーイズ・バンドとしては初の全米TOP3入りを記録したのだ。アデル以降のブリティッシュ・インヴェイジョンという追い風もあったとはいえ、これは異例の出来事だった(UKボーイズのTOP10入り自体がテイク・ザット“Back For Good”以来16年ぶりだった)。

なお、その後に同成績で並んだのが他ならぬワン・ダイレクションの“Live While We're Young”だったりするのだが、このふたつのグループの持ち味は当然のように異なる。91〜93年生まれという年齢以上の少年性をアピールして元気な合唱を繰り広げるワン・ダイレクションに対し、88〜93年生まれから成るウォンテッドは、バッド・ボーイ風の佇まいそのままの自由さを持ち味にし、歌世界においても年齢相応のセクシャルな表現を厭わない(リンジー・ローハンが追っかけと化して逮捕される事件もあった……)。何よりウォンテッドが最大の魅力としているのはその楽曲そのものだ。「ファースト・アルバムの時も自分で思っていたより制作に携わった」(ジェイ)という彼らだが、セカンド・アルバムはほぼ全曲をライティング。デビュー曲のカップリングでイグザンプルをカヴァーしていたのにも驚いたが、それもさまざまな音楽の滋養を、彼ら個々がリアルタイムで吸収して自分たちの音楽に反映させていることの反映でもある。

「ご存知の通り、音楽は年々変化しているし、俺たちはその時その時に自分たちが良いと思う音楽を採り入れているんだ。だから、前にはなかった要素がその次のアルバムには入る。例えば『Battleground』にあるグランジーなダブステップ・ポップも、凄くダークな要素も、とにかく壮大な雰囲気のナンバーも、最初のアルバムにはなかったものだ」(ジェイ)。

その〈次のアルバム〉でウォンテッドがウォントしているのは、ひとまず成功を収めた『The Wanted: The EP』を受けての、さらなるブレイクに違いない。昨年ピットブルのアルバムに参加していたのもその一環だろうし、今年の米〈People's Choise Awards〉ではカーリー・レイ・ジェプセンや1Dを抑えて〈Favorite Breakout Artist〉部門を受賞。6月にはUSで彼ら主役のリアリティー番組もスタートするという。そして秋に届けられる3枚目のオリジナル・アルバムは勝負の一枚になりそうだ。

「いつかすべてを振り返って、〈俺は仲間といっしょに世界中を旅してきたんだ〉って言いたいんだよね。一生の友達ができただけじゃなく、他の人がほとんど誰もやれないようなことを成し遂げてきた。俺は絶対にそれを忘れないよ」(マックス)。

狂騒のなかにあってそう話す彼らだが、その旅はまだ始まったばかり……ということで、次号から〈指名手配〉中のウォンテッドを追う連載をスタートします!



PROFILE/ウォンテッド


2009年に結成されたUKのボーイズ・バンド。オーディションで集まったマックス、シヴァ、トム、ネイサン、ジェイが共同生活を送りながらレッスンに励み、2010年にシングル“All Time Low”でデビューを果たす。同曲は全英1位を獲得し、続く“Heart Vacancy”は2位、ファースト・アルバム『The Wanted』は4位とそれぞれヒットを記録。翌2011年のシングル“Glad You Came”が全英1位/全米3位に輝き、2枚目のアルバム『Battleground』は本国でプラチナ・ディスクに。2012年より本格的な北米進出を開始し、編集盤『The Wanted: The EP』(Mercury/ユニバーサル)が全米7位のヒットを記録した。同作をリパッケージした〈ザ・ウォンテッド -最強盤〉が5月8日にリリースされる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年05月08日 17:59

更新: 2013年05月08日 17:59

ソース: bounce 354号(2013年4月25日発行)

構成・文/出嶌孝次