インタビュー

加羽沢美濃

コンポーザー・ピアニストから、作曲家へ

テレビやラジオ番組などの司会もこなし、今やお茶の間的存在の加羽沢美濃。デビューして16年になるという今年、全ての調を使った自作自演アルバム『24のプレリュード』を発表した。バッハやショパン、ドビュッシーらにも、同種のピアノ曲集があり、彼らに名を連ねる意欲作だ。

「そんな大それたことは考えませんでした(笑)」

とは言え、今までの〈コンポーザー・ピアニスト〉という肩書を〈作曲家〉に替え、「後世に残る作品を書きたい」という信念のもとに臨んだ作品だ。

「確かにピアノのオリジナル・アルバムを作ることは大きなハードルでした。当初弦楽器や木管楽器など様々な楽器を使い絵画のような作品をと考えていたので、ピアノ一台ではイメージした色彩が出せないのではないかと思い、デッサンで勝負するようで緊張しました。でも、プレリュードは形式が自由だし、24のそれぞれの調に色彩を感じ、24色の色鉛筆で自由に絵を描けるんだと意欲を掻き立てられたんです」

24曲それぞれにはタイトルがあり個性を放つが、水の流れのように連環し、一つの物語のようでもある。

「『24のプレリュード』は、1番2番というようにタイトルは考えていませんでした。言葉にできない想いを音楽にしているのでタイトルをつけたりするのは苦手意識が強いかもしれません。それに、今回は特に調性にスポットをあてていることもあります」

海辺に住み、海からエネルギーをもらっている。大切だが脅威にもなる水。だからこそ、今回は濡れた感じのピアノの音を作りたかったとも言う。

「それで水のイメージになったのかもしれませんね」

24曲の配列も面白い。バッハの場合、半音ずつ上がるが、加羽沢版はというと、

「属調の同主調、つまりハ長調だったら次はト短調というようにしました。そして、スタートする調もハ長調という決め事を一度取り払って考えました。例えばオーケストラのチューニングもラの音だし、赤ちゃんの最初の産声もラの音と言われているので、イ長調から始めて、イ短調に戻ってくる。という風しました」

加羽沢にとって作曲は言葉にできない思いを吐き出す最大の表現手段。眠っている思いが自然に溢れ出す。 「自分の中でしまわれているもの。それが曲を書くことでふと出てくる」と。なるほど今回のピアノ曲集も哀愁が漂い、どこか日本的な抒情が底流しているのだ。明るく華やかに見えて、「実は暗いんです」と笑う加羽沢美濃。いつか深く内包する憂愁を交響曲にぶつける日が来るだろう。それを待ちたい。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年05月08日 13:21

ソース: intoxicate vol.103(2013年4月20日発行号)

interview&text : 山口眞子